労働者派遣法改悪案は廃案に
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以下、しんぶん「赤旗」より転載します。
2015年7月9日(木)
直接雇用の道 閉ざす
参院本会議 派遣法改悪案審議入り 辰巳氏が批判
安倍内閣が今国会で成立を狙う労働者派遣法改悪案が8日の参院本会議で審議入りしました。質問に立った日本共産党の辰巳孝太郎議員は、派遣労働者が「法改定で直接雇用の道が閉ざされる」と声をあげていると指摘。「4割にまで広がった非正規雇用、低賃金・不安定雇用をさらに広げる」とのべ、「格差と貧困をより深刻にし、日本の活力を奪い、国内需要まで冷え込ませる」と批判しました。 (関連記事)
辰巳氏は、改悪案では、人を代えたり、部署を変えれば永続的に派遣を使い続けられると指摘し、「常用代替禁止の原則は実効性を失う。正社員を派遣で置き換えることができる」とのべました。
派遣先の労働組合から「意見聴取」さえすれば、反対されても半永久的に派遣の受け入れが可能になり、「どこが『歯止め』か」と強調。「雇用安定措置」についても、派遣先への直接雇用の“依頼”にすぎないと批判し、「必要なのは、派遣先での正社員化、直接雇用の義務化だ」と求めました。
安倍晋三首相は、労働組合が反対した場合、「一方的に延長することは想定しにくい」というだけで、派遣先での直接雇用についても、「経営判断により決定される」とのべ、何の保証もないことを認めました。
辰巳氏は、違法派遣があった場合に、派遣先に直接雇用させる「みなし制度」について、改悪案によって「業務偽装」や期間制限違反は発生しなくなり、発動されないと指摘。「みなし制度」廃止を求める経団連の要求に応えるのが本音ではないかと批判し、「派遣先企業免責・救済法」だと批判しました。
辰巳氏は、直接雇用・正社員化と同一労働・同一賃金こそ実行すべきだと求めました。
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以下、会議録を掲載。
○議長(山崎正昭君) 辰巳孝太郎君。
〔辰巳孝太郎君登壇、拍手〕
○辰巳孝太郎君 私は、日本共産党を代表して、労働者派遣法改定案について、総理並びに厚生労働大臣に質問いたします。
業績が悪いからの一言で切られる、私にも日々の暮らし、家族があり、安定した生活を求めている、ある派遣労働者の声です。今でも多くの派遣労働者が、派遣は低賃金で不安定、法改定で直接雇用の道が閉ざされると怒りの声を上げ続けています。
元々、労働者供給事業は職業安定法第四十四条で禁止されています。これは、戦前、人貸し業の中間搾取が労働者を苦しめ、「蟹工船」にも描かれたようなひどい無権利状態を招いたからです。直接雇用の大原則はこの反省から生まれました。
ところが、一九八五年の労働者派遣法制定以降、当初十三業種に限られていたものが、九九年には原則自由化、二〇〇三年には製造業にまで広げられました。派遣労働者の数は二〇〇八年度に過去最高の三百九十九万人に達し、全世界の派遣事業収益の四分の一を日本が占め、ILOが指摘するとおり、日本は世界最大の派遣市場を持つ国となりました。その結果、リーマン・ショックを理由に次々と派遣切りが行われ、社会問題ともなり、不十分ですが派遣法の見直しも行われたのです。
ところが、本法案は、そんな反省もなく、規制緩和を更に進めるものであります。総理、あなたの目指す世界で一番企業が活躍しやすい国とは、今や四割にまで広がった非正規雇用、低賃金、不安定雇用を更に広げることですか。そんなことをすれば、格差と貧困をより深刻にし、日本の活力を奪い、国内需要までも冷え込ませることになるのではありませんか。お答えください。
現行派遣法には、常用雇用の代替はしてはならないとの大原則があり、派遣は臨時的、一時的業務に限るとされてきました。これは、企業にとって原則一年、最長で三年を超えても必要な業務は派遣ではなく直接雇用すべきだということです。ところが、改定案では、同じ業務であっても、人さえ替えればずっと派遣を使い続けることができます。総理、常用代替の禁止は、この法案によって事実上実効性を失うのではないですか。
また、別の部署に異動させれば永続的に同一の派遣労働者を雇い続けることができます。派遣先にとって、ずっと派遣を使うことができれば正社員を雇わなくていい、まさに正社員を派遣で置き換えることができるのではありませんか。
改定案では、同一事業所での派遣労働者の受入れ上限は三年としています。しかし、過半数労働組合等から意見聴取をすれば三年を超えて派遣労働者を受け入れることができます。政府は、この意見聴取に常用代替に対する歯止め効果があるとしています。しかし、過半数労働組合等が受入れに反対しても、対応方針等の説明を行えば半永久的に派遣労働者の受入れが可能ではありませんか。これのどこが歯止めになるのですか。
政府は、派遣労働者が就業継続を希望する場合は雇用安定措置をとるとしています。その一つが派遣元の派遣先への直接雇用の依頼の義務付けです。本年二月の施政方針演説において総理も、その取組によって正規雇用を望む派遣労働者の皆さんにそのチャンスを広げますと断言しています。
しかし、あくまで依頼の義務付けです。チャンスを広げると言った総理は、一体どれだけの派遣先企業がこの依頼に応えて派遣労働者を正規雇用すると見込まれているのですか。また、正規雇用、直接雇用のために派遣先企業には一体何を義務付けたのですか。総理、具体的にお示しください。
法案では、正社員への道を後押しするため、派遣元に義務付ける教育訓練等によってキャリア形成支援を行うとしています。三年ごとにキャリアの見詰め直しを行うことが処遇の改善に結び付くと言いますが、なぜ派遣労働者だけが三年ごとにキャリアの見詰め直しを迫られなければならないのですか。総理、お答えください。
また、現行法では期間制限のない専門二十六業務の方にも期間制限が課されます。このことで、既に雇用契約の打切りを言明する企業も現れ、ベテラン派遣労働者などを中心に大きな不安が広がっています。
派遣労働者には正社員と同等以上の技術や経験を持つ方がたくさんおられます。正社員を希望する派遣で働く方、この方については道が開けるようにすると繰り返し言うのなら、そういう方々にとって必要なのは、派遣元による教育訓練等の義務化などではなく、派遣先での正社員化、直接雇用の義務化ではありませんか。総理、お答えください。
次に、違法派遣があれば派遣先が直接雇用する労働契約申込みみなし制度の問題です。
このみなし制度は、本年十月一日施行で、専門二十六業務の偽装や期間制限違反など、違法な派遣があれば派遣先に直接雇用を義務付けるもので、派遣切りを契機に二〇一二年に盛り込まれました。総理は、このみなし制度によってどれだけの労働者が直接雇用になると考えていますか。
しかし、本法案が成立し、九月一日施行となれば、専門業務偽装、期間制限違反などはそもそも発生しなくなり、みなし制度は発動されません。これでは、直接雇用の道が開かれるはずだった派遣労働者は救済されないではありませんか。十月一日の施行まで三年も待たせた挙げ句に、違法を合法に変える法改定であり、労働者への背信行為です。
総理は、円滑に施行するためだと言いますが、日本経団連は、二〇一三年の政策提言、今後の労働者派遣制度のあり方についての中でも、みなし制度については、その施行前に制度自体を廃止すべきであると要求をしてきました。本法案は、この声に応えるものにほかならないのではありませんか。また、厚労省は、訴訟につながるおそれを九月一日施行の根拠ともしています。しかし、訴訟につながるような違法派遣の根絶に力を尽くすことこそが労働行政の役割ではありませんか。
政府は、附則において、雇用慣行が損なわれるおそれがある場合は、速やかに新法の規定の検討を行うと定めました。厚労大臣は、雇用慣行が損なわれるとは、正社員から派遣への置き換えが常態化する場合と答弁しました。これは、置き換えが常態化するまでは容認するということですか。厚労大臣、これでは常用代替の禁止原則を堅持することにならないのではないですか。お答えください。
結局、幾ら本法案が、派遣就業が臨時的、一時的なものであると明記しても、また派遣元に雇用安定措置を義務付けても、派遣先に負わせる直接の義務は何一つありません。これは、もはや派遣労働者を保護する法案でも何でもありません。派遣先企業免責・救済法ではありませんか。
政府は、この法案を突破口に、岩盤規制の打破として残業代ゼロ法、解雇の金銭解決など、労働者が持つ当たり前の権利をずたずたにする規制緩和路線を更に進めようとしています。今、政府が行うべきは、直接雇用、正社員が当たり前の社会、欧州では当然の同一労働同一賃金が徹底される社会の実現です。
日本共産党は、安倍政権の暴走をストップするため、そして希代の悪法を三度廃案にするため、全ての労働者とスクラムを組んで闘うことをお約束し、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 辰巳孝太郎議員にお答えをいたします。
非正規雇用と格差等についてお尋ねがありました。
政権交代後、有効求人倍率が二十三年ぶりの高水準となるなど、雇用環境が改善している中、最近の非正規の増加については、高齢層やパートなどで働き始める方の増加といった要因が大きく、また、不本意ながら非正規に就いている方は前年に比べ減少するといった状況にあります。派遣で働く方は非正規の六%ですが、今回の改正案は、正社員を希望する方にその道を開き、派遣を積極的に選択する方には待遇の改善を図るものであり、格差と貧困を広げたり、国内需要を冷え込ませるといった御指摘は当たりません。
安倍内閣としては、三本の矢の政策を更に前に進め、経済再生を図る中で、働く方々の雇用と生活の安定を図りつつ、それぞれの選択がしっかり実現できるよう環境の整備に取り組んでまいります。
常用代替とその歯止め等についてお尋ねがありました。
派遣労働については、雇用主責任を負わない派遣先で安易な派遣の利用が進み、正社員から派遣労働者への置き換えが生じることのないよう、これを防ぐことが課題とされてきました。このため、今回の改正案では、派遣先の事業所単位で受入れ期間の上限を三年とした上、延長する場合には現場の実態をよく知る過半数組合等からの意見聴取を義務付け、派遣労働者への置き換えを防ぐこととしています。現場を重視する我が国の労使関係を踏まえれば、派遣先が労働者側の意見を無視して一方的に受入れ期間を延長することは想定しにくいものと考えています。
なお、意見聴取の実効性を確保するため、派遣先に対し、反対意見があったときは事前に対応方針を説明することや意見聴取の記録を周知する義務を新たに課し、労使間で実質的な話合いができる仕組みをつくることとしています。
雇用安定措置と派遣先の関係についてお尋ねがありました。
一般に、派遣という働き方は、派遣期間が終了すればそのまま職を失うこともあるなど、雇用の安定が図られにくい面があります。このため、改正案では、個々の労働者の雇用が途切れることのないよう、派遣元の責任を強化し、派遣期間が満了した場合に派遣先への直接雇用の依頼などの雇用安定措置を新たに義務付けることとしています。
派遣先における労働者の構成は、景気や技術の進歩、労働者の意向等も踏まえ、経営判断により決定されるものであり、派遣元からの依頼により直接雇用される人数がどうなるかを予測することは困難ですが、正社員への移行を一歩でも前進させるため、これまでになかった仕組みを設けるものであります。
また、派遣先には、直接雇用の依頼があった派遣労働者に対し労働者の募集情報を提供することを義務付けるとともに、その派遣労働者が従事していた業務に新たに労働者を募集する場合には、その方の雇入れを努力義務とし、正社員として雇用する場合のキャリアアップ助成金の活用等を進めることとしています。
安倍政権としては、雇用の安定や所得環境の改善に取り組んでいるところであり、これと併せ、希望する方の正社員化を推進することとしています。
派遣労働者のキャリア形成と派遣先の役割についてお尋ねがありました。
一般に、派遣という働き方は雇用の安定やキャリア形成が図られにくい面があります。このため、改正案では、キャリアを見直す機会となるよう、派遣労働者ごとの個人単位で同じ職場への派遣は三年を上限とした上、派遣元に対し、計画的な教育訓練やキャリアコンサルティングを新たに義務付けることとしており、これまでになかったこうした仕組みにより、派遣で働く方のキャリアアップを支援することとしています。
また、派遣労働者のキャリア形成については、雇用計画の当事者である派遣元が一義的な責任を負うべきものと考えられます。このため、この派遣元の責任を強化し、派遣期間が満了した場合に、派遣先に直接雇用を依頼したり、別の会社等で働き続けることができるようにする措置を新たに義務付けることとしています。
なお、派遣先に対しても、直接雇用の依頼があった派遣労働者に対し労働者の募集情報を提供するなど、新たな義務を課すこととしています。
労働契約申込みみなし制度についてのお尋ねがありました。
平成二十四年の法改正により、派遣先において、派遣受入れ期間の制限に反するなど違法な派遣の受入れがある場合に、その派遣労働者に直接雇用の契約を申し込んだものとみなす制度が設けられ、本年十月からの施行が予定されています。これは、期間制限違反等を防止する観点から設けられる仕組みであり、この法案成立後も、改正後の期間制限に違反する場合には当然適用されるものです。したがって、みなし制度が発動されないとの御指摘は当たりません。
なお、本制度は違法行為の抑制を目的とする仕組みであることから、その施行後に、どのくらい違法な派遣受入れが行われ、その結果どの程度直接雇用となるかを予測することは困難であります。
また、施行日については、派遣労働者の雇用の安定や保護の強化を図るという改正内容をなるべく早期に実現するとともに、労働契約申込みみなし制度を円滑に施行できるよう九月一日としているものであり、みなし制度を廃止すべきとの要求に応えるものとの御指摘は全く当たりません。
残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)
〔国務大臣塩崎恭久君登壇、拍手〕
○国務大臣(塩崎恭久君) 辰巳孝太郎議員にお答えを申し上げます。
違法派遣の根絶についてのお尋ねがございました。
御指摘のように、違法な派遣の根絶に力を尽くすことは労働行政の重要な役割であると考えております。
違法派遣については、都道府県労働局において派遣元や派遣先に対する指導監督等を実施しており、悪質な事業者については行政処分等の厳しい対応を行っています。これらを通じて、今後とも違法な派遣の根絶について力を尽くしてまいりたいと考えております。
常用代替の防止についてのお尋ねがございました。
今回の改正案では、常用代替を防ぐため、事業所単位で三年という期間制限を設けた上で、三年を超えて派遣で働く方を受け入れようとする場合には過半数労働組合等からの意見聴取を義務付け、反対意見があったときは対応方針等の説明を新たに法的に義務付けることとしております。
その上で、附則第二条第二項では、常用代替が常態化するまで容認するのではなく、常態化のおそれがある場合に速やかに検討を行うこととしたものであり、常用代替の防止の原則は維持することとしています。
以上でございます。(拍手)
○議長(山崎正昭君) これにて質疑は終了いたしました。