所得の公平な再分配を
日本共産党の辰巳孝太郎議員は、10日の参院「デフレ脱却・財政再建に関する調査会」の参考人質疑で、格差と貧困、所得の再分配について質問しました。
辰巳氏は「日本は所得の再分配機能が脆弱(ぜいじゃく)で格差と貧困が広がっている。また、収入わずか100万円で住民税が課せられるなど、非課税ラインが低く厳しいのでは」と質問しました。
大沢真理参考人(東京大学教授)は「ご指摘の通りで、勤労者の社会保険料負担もOECD(経済協力開発機構)の中で日本は高い。低所得者の負担は重すぎる」と答えました。
また大沢参考人は「家計消費が低く、実質賃金が下がっている。雇用も非正規の比率が高く、雇用者報酬が低下している。貧困は以前は高齢者の問題だったが、(近年は)子どもから中年層で問題になっており、とりわけ18歳から25歳の貧困率が深刻だ」と述べ、安倍政権のもとで格差と貧困が広がっている実態を指摘しました。
その上で、「国民生活に必要なことは、正社員と非正規労働者の待遇格差の解消だ」と述べ、所得再分配機能を強化し、学校教育等への財政支出を増やすべきだとの認識を示しました。
2016年2月13日付「しんぶん赤旗」より引用
○辰巳孝太郎君 日本共産党の辰巳孝太郎でございます。
三人の参考人の方、お忙しい中本当にありがとうございました。多くの示唆に富んだ御提言も聞かせていただきました。
今国会におきましては、とりわけ格差と貧困の問題を各党が取り上げて質問しているのが特徴ではないかというふうに私も思っております。
十八歳選挙権ということで、先月、NHKが世論調査、十八歳、十九歳の青年たちに調査をしたところ、所得格差が大き過ぎると思うかという問いに対して大き過ぎると答えた青年が七三%で、そうではないと答えた二五%を大きく上回ったという報道もありました。
いろいろ取り上げられてはいるんですが、なかなか政府の答弁というのは、本当に、この日本の格差と貧困の実態そのものを認めてはいるんでしょうけれども、答弁の中からはなかなかそれを認めたくないというのがありまして、例えば安倍総理などは、分配、再分配するにもまず成長が必要だということを言ったりとか、あと相対的貧困率というのは所得のみで見ているので、現物、現金給付などが加味されていないと、何か認めたくないというのがいろんな答弁の節々で出てきているんですけれども、とはいえ、一億総活躍社会というのを掲げながら、一人親家庭、母子世帯がほとんどですけれども、二人目の給付については五千円から一万円にする、三人目については三千円から六千円にすると、そういう部分では改善した面はあるというふうに思うんですが。
まず大沢参考人にちょっとお聞きしたいんですが、この政府の格差と貧困に対する認識とか、また姿勢、これを社会保障、格差と貧困を専門にされている大沢参考人から見てどのように受け止められますでしょうか。
○参考人(大沢真理君) 二〇〇五、六年ぐらいからこれは国会でも論戦がございまして、現在、相対的貧困率を算出している元データである国民生活基礎調査というのが正確な調査であるかどうかということは、二〇〇六年辺りの国会の質疑でも話題になっております。
当時、安倍総理は、統計の根拠が明確でないものがあるというふうな答弁もなさっておりますけれども、その前後、いろいろな研究者が各種の統計を精査した結果として、国民生活基礎調査は決して貧困や格差を過大評価はしていない、逆に、政府が時々引用されます家計調査の方はむしろ低所得者を過小評価しているという結論が出ておりまして、この点は学術的には決着が付いたというふうに考えております。また、国際比較では国民生活基礎調査はずっと使われておりますので、一貫して使い続けることに意味はある。
しかしながら、どちらの調査も完璧ではございません。私が期待したいのは、三年に一度と言わず毎年でも、より精度の高い調査を設計してやっていただきたいということです。現実を知る、直視することなしに改善というものは図れないというふうに思っておりますので、そこを期待しております。
○辰巳孝太郎君 ありがとうございました。
続けて大沢参考人にお聞きしたいんですけれども、いろんなデータで日本の場合は所得の再分配機能が脆弱といいますか、これを強化する必要があると。給付付き税額控除の導入などを提案されているわけなんですが、先ほど国民健康保険料の話も少しされたと思うんですけれども、低所得者に対してそういう保険料や税金の負担がちょっと重過ぎるんじゃないかという問題意識を私持っております。
例えば、一人で働きますと、今百万円の収入があれば住民税が掛かってきますので、それに伴って住民税、数千円ですけれども、その場合は保険料が上がったりとか、いろんなサービスの利用料というのが増えてくるということもありますし、私は大阪出身なんですけれども、大阪市の国民健康保険料をちょっと計算してみたんですけれども、夫婦二人で四人家族、子供二人、所得が二百万円、収入でいうと三百万円ちょっとですけれども、この世帯の年間の国民健康保険料が三十四万六千円ほどになるという、これが実態なんですね。
私がちょっとお聞きしたいのは非課税ラインですね。保険料にしろ税金にしろ、百万円で掛かってしまう。所得二百万円で三十四万円の保険料が四人家族で掛かってしまう。ここは余りにもこういう世帯に対しては厳し過ぎるんじゃないかというふうにちょっと思っているんです。これは、生活保護の基準と比較しても、いわゆる生活保護の給付というのは可処分所得ですから、そことの比較で見ても余りにも負担が大きいんじゃないかというふうに思うんですが、その点についてどのようにお考えでしょうか。
○参考人(大沢真理君) 御指摘のとおりです。
そもそも、勤労者に対する社会保険料負担というのも、日本はOECD諸国でドイツに次いで高い国でございます。他方で、事業主、雇主の方の社会保険料負担というのは中程度です。先ほど法人税が高いというお話ありましたけれども、社会保険料負担と合わせれば、日本の事業主の公租公課負担というのは決して高くございません。
その上で、今お話のあった例えば国保あるいは基礎年金の第一号被保険者というところに関して言いますと、確かに負担は重過ぎます。所得再分配調査でいきますと、当初所得の年収が再分配前の五十万未満の世帯にとっては社会保険料負担というのは一五〇%になっています。これは、誰かからお金借りたり貯金を取り崩さないと社会保険料が払えないという状況を示しておりまして、非常に重くなっています。
この対策として各種の減免措置もあるところですけれども、私は、減免措置を拡充して徴収ベースを狭めるよりは社会保険料税額控除みたいなものを導入する、こういう制度を持っている国は少なくないわけですので、それについても、つまり、消費税の逆進性対策だけではなく給付付き税額控除というのはかなり賢い政策手段というふうに、特にマイナンバー制度が導入されれば不正な受給というのもかなり抑え込むことができますので、そこに期待をしております。
○辰巳孝太郎君 ありがとうございました。
最後に神野先生にお聞きをしたいんですけれども、先ほど、欧州の場合は、所得課税と法人課税を軽くせずに消費税を上げていったと。ところが、日本の場合はその逆で、所得税それと法人税、この負担を弱めて消費税を上げていったと。その違いのことを強調されていたと思うんですけれども、また同時に、累進性を高めることが国民に増税の理解を求めるには必要じゃないかという話がありました。
ずばりといいますか、来年四月に予定はされている消費税なんですけれども、この間、我々、法人減税というのが余りにもやり過ぎだということで、大企業には三百兆円ほどの内部留保もたまっている、それで何でまた消費税なんだという話もしてきたんですが、いわゆる日本の経済成長、またデフレの脱却のためにも、今の日本の現状の経済の中で、来年四月の消費税の増税というのがどのような国民生活やまた日本の経済成長、経済そのものに影響を与えるのかというふうに思われているかということを少しお聞きしたいと思うんですが。
○参考人(神野直彦君) まず、これから行われようとしている増税について言うと、これは低所得者向けの社会保障とリンクしていますから、使い道が、これどうなるかということに関わっていますので、やめること自身は貧しい人や貧困者にとって必ずしも、日本の場合には税と使い道というのをリンクして考えないわけですけれども、スウェーデンの意識調査では、日本と同じように、税負担は嫌だとみんなアンケート出てくるんですよ。でも、例えば、子供の教育を充実するのに増税に応じる用意がありますか、みんなイエスです。スウェーデンでノーと答えているのは生活保護と住宅手当です。この二つはノーなんですけれども、子供たちの育児施設を充実する、お年寄りもということになりますので、どういうサービスを提供してどういう負担をしていくのかということでないと駄目だと。
私は、消費税という税金の使い道は財政再建には使うべきではなくてサービスを強めるために使うべきだというふうに位置付けていますので、消費税を増税するのであれば、それだけの国民の生活を支える。したがって、先ほどお願いしたように、有り難みがちゃんと出るようにやっていただかないと成り立ち得ないというふうに考えております。
したがって、これは経済的に悪い影響を与えるとはちょっと信じられないんですね。消費税増税すると、アナウンスメント効果というのが働いて消費需要が増加するんですよ。御存じですよね。これはもう日本でもどこの国もアナウンスメント効果があって、消費需要、とりわけ高いものの消費需要は、何というのかな、増税しますよと言った瞬間に駆け込み需要でずっと上がるわけですよね。実際にやられた瞬間でどんと落ちるのはもう見込み済みですよね。だから、二段階で上げてほしいというふうに私はお願いしてきましたし、つまり一回でやるんじゃなくてもう一回やると、その間、また落ちが少なくなるんですね。今回も、私の場合には、予定どおり上げても消費需要は増えたんじゃないかと思っています。
ただ、税の増減によって基礎的な消費は上がったり下がったりしませんから、基礎的な消費は賃金が伸びているかどうかというふうに決まりますので、その間に賃金を上げておくということが重要で、読み込み済みのことですから、アナウンスメント効果といいますか、それは適切な対策をやれば経済を失速させるようなことはあり得ないというふうに思っています。
○辰巳孝太郎君 賃金が上がることが大事だということだと思います。
ありがとうございました。実質賃金ね。