杭打ち問題で質問 全容解明・実態把握を要求
横浜市の大型マンション傾斜を発端に杭(くい)打ちデータ偽装が深刻化し、不安が広がるなか、国会は3日、衆参両院の国土交通委員会を開き、基礎くい工事問題等に関して閉会中審査を行いました。日本共産党の本村伸子衆院議員と辰巳孝太郎参院議員が、全容解明・実態把握を求めるとともに、建設業界における工事の監理体制や行政等の検査の強化、第三者によるチェック体制創設の必要性を訴えました。
今年は耐震強度偽装(姉歯事件)問題から10年。本村氏は当時、マンションから退去を強いられた住民の「建設業界のモラルの低さに驚く」との言葉を重く受け止めるべきだと迫り、全容解明と実態の把握を求めました。石井啓一国交相は「コンクリートパイル建設技術協会の報告で約2800件以上の自主点検の結果、業界の実態を把握するという目的にあった情報を得られた。再発防止につなげていきたい」と実態把握は“十分”できたとの認識を示しました。 本村氏は、業界任せの自主点検について「限界がある」との指摘があるとし、「業界全体への調査を実施すると新規工事がストップする」ため、国交省が「建設業界へ配慮」しているのではないのか、住民、利用者の安全を二の次にしていないかと詰め寄りました。 辰巳氏は、横浜市のマンションのデータ偽装をした旭化成建材だけでなく業界最大手などで相次ぎ不正が起こったことは重大だと指摘すると同時に、「ずさんな工事施工に対しては元請けの責任は免れない」と強調しました。 一定以上の建築物の工事をする場合、建築士である工事監理者は、設計通りの施工が実施されているかを確認する義務があります。辰巳氏は、当該マンションで工事監理者は誰が務めたかを質問。国交省は「(元請けの)三井住友建設の3名の建築士で、設計者も同じ」としました。 辰巳氏は、工事監理業務の適正化と第三者性の実効性確保が必要だと強調し、「チェック機能が働かない構造的問題を放置してきたのではないか」と追及しました。 本村、辰巳の両氏はそれぞれ最後に、元請けも含めた参考人招致をして審議することを求めました。
○辰巳孝太郎君 日本共産党の辰巳孝太郎でございます。
くい打ちデータ偽装問題について質問をいたします。
あってはならないことが起こりました。今回の問題は、旭化成建材だけではなくて、業界最大手の三谷セキサンやジャパンパイルなどでも流用が次々と明らかになっております。同時に、くい打ち業者だけの問題なのかということも提起しなければなりません。元請の責任はどうなのかということ、これが大事だと思うんですね。ずさんな工事施工に対しては、元請の責任というのは私は免れないというふうに思います。
まず最初にお聞きをしますけれども、この元請である三井住友建設が当該マンション建設に関して果たすべき役割というのは何だったんでしょうか、まずお答えください。
○国務大臣(石井啓一君) 元請業者の責任でございますが、一般論として申し上げれば、発注者から直接建設工事を請け負った元請会社は、建設業法上、下請負人に対する指導や施工体制台帳及び施工体系図の作成、工事全般を監督する技術者としての監理技術者の設置等の義務を負っております。元請業者は工事全体の責任を負っているところでございます。
○辰巳孝太郎君 もう一つ大臣に続けて質問をしたいと思うんですけれども、今日の新聞各紙の報道で、三井住友建設が、この横浜のマンション建設の前に建っていた旧の建物では同じ場所に十八メートルのくいが使われていたということ、このことを知りながら十四メートルのくいを使うようにと旭化成建材に指示をしていたということが報道されております。くい打ちを行った旭化成建材の方では、この解体について事前には知らされていなかったと、こういうことであります。
こういうことになりますと、設計ミスという問題どころか、故意に十八メートルを使わなきゃいけないくいを十四メートルでいいということを指示して下ろしたんじゃないかと、こういうことも疑われると思うんですけれども、大臣の御見解をお聞きしたいと思います。
○国務大臣(石井啓一君) 横浜の問題のマンションの件でございますが、国土交通省といたしましては、横浜市と協力をして基礎ぐいの設計等の状況について調査を行っているところでございます。
今御指摘がございましたが、その調査過程におきまして、三井住友建設から提供を受けた資料から、当該マンションの敷地には従前他の建築物があったということ、当該建築物の既存ぐいに関して、くいの長さが十八メーターのものについてくいの全長撤去を行うことを示した書類があることは確認をしております。
今後、これがマンションの基礎ぐいの設計施工にどのような影響を与えたのか等の点については、横浜市と協力して引き続き調査をしてまいりたいと思っております。
○辰巳孝太郎君 新聞報道のとおりであれば、重大な問題が元請の三井住友建設にもあると言わなければならないと思います。
それと、今日私が取り上げたいのは工事監理者の責任でございます。今日、皆さんのお手元に、資料にも付けておりますけれども、建設、建築を発注する建築主、工事を施工する人、また設計者がいるわけですけれども、その間に工事監理者というのを置かなければならないと、こういうことになっているわけであります。この監理者というのは監督の監ですね、いわゆる現場ではさらかん、さらかんと言われているんですけれども、この工事監理者の役割とは何なのかということをまず示していただけますでしょうか。
○政府参考人(由木文彦君) お答え申し上げます。
工事監理の問題につきましては、基準法と建築士法双方に規定がございます。基準法におきまして、建築主は、用途に応じまして一定規模以上の建築物の工事をする場合には、建築士である工事監理者を定めなければならないということとされております。建築士法におきまして、工事監理そのものの定義が置いてございます。その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することというふうに定められております。
実際に、ではどういう方法かということにつきましては、工事が設計図書のとおりに実施されているかを確認し、設計図書のとおりに実施されていない場合には、工事施工者に対し設計図書どおりに実施するよう求め、従わない場合には建築主に報告するということとなっております。
また、建築士法におきましても、基準法と同様に、一定規模以上の建築物の施工管理については建築士でなければいけないというような形での同じような規定が置かれていると、そういう状況になっているところでございます。
○辰巳孝太郎君 つまり、この工事監理者というのは、その責任を果たす、チェック機能を果たすということが、ずさんな工事施工や、また欠陥住宅、この被害を減少させるために非常に重要であるということだと思います。
しかし、今回この工事監理者がその責任をきちんと果たせていたのかということなんですが、国交省に聞きますけれども、当該マンションでこの工事監理者は誰が務めたんでしょうか。
○政府参考人(由木文彦君) お答え申し上げます。
横浜マンションの事案につきましては、工事監理者は三井住友建設株式会社首都圏住宅建設事業部一級建築士事務所に所属いたします三名の一級建築士となっております。なお、この三名の建築士は設計者と同一でございます。
○辰巳孝太郎君 いわゆる設計施工が同一で、そして工事監理者も一緒だということであります。大臣、これで十分なチェック機能が果たせると思いますか。
○国務大臣(石井啓一君) 工事監理者は、施工者が工事を設計図書のとおりに実施しているかを確認し、必要な指示を行うとともに、従わない場合には建築主に報告するという役割を担っております。
横浜のマンションの事案に関しまして、国土交通省としましては、三井住友建設に対しまして工事監理の実施状況についてヒアリングを行っております。それによりますと、工事監理者は、各棟のくいのうちの最初の一本である試験ぐいについて立ち会って支持層への到達等を確認し、残りのくいについては施工記録により確認していたということでございます。
この工事監理の方法については、国において工事監理ガイドラインを定めておりまして、立会い確認若しくは書類確認のいずれか又は両方を併用して、工事に応じた合理的な方法で確認を行うこととされております。
本事案における工事監理の方法はガイドラインに照らして直ちに問題があるとは考えてはおりませんけれども、いずれにいたしましても、今後、今回の事案の原因究明を早急に行い、建築関係法令も含めて予断を交えず対策委員会において御議論いただき、その結果を踏まえ、再発防止策を検討してまいりたいと存じます。
○辰巳孝太郎君 大臣、今工事監理の方法ということもおっしゃっていただきましたけれども、私が問題にしているのは、身内の三井住友建設から給料をもらっている建築士である、そして工事監理者が、第三者的な立場で工事監理、この責任を果たすことができるのかどうかということなんですね。これは到底私はできないと思うんですよ。
先ほどガイドラインということも出していただきましたけれども、このガイドラインが制定される前の社会資本整備審議会において、これは姉歯事件を受けて議論をされているわけですね。「建築物の安全性確保のための建築行政のあり方について」、これが議論をされております。
ここで指摘をされている中には、現場管理者が工事監理を行っていて十分なチェック機能が果たせていない場合がある、設計者が工事監理者であっても工事現場での照合をほとんど行っていない場合がある等、工事監理が適切に機能していない実態が明らかになってきており、工事監理の方法、内容、範囲等を明らかにして、工事監理者の責任を明確にすべきだという、こういう指摘があると報告では記述されております。と同時に、この工事監理業務については、その適正化と第三者性などの実効性の確保を図るための措置が必要だと述べているんですね。
国交省に聞きますけれども、この実際のガイドライン、そして二〇〇六年の法改定では、これらの答申がどのように反映されたんでしょうか、第三者性について。
○政府参考人(由木文彦君) お答えいたします。
お話しいただきましたように、いわゆる構造計算書の偽装問題を受けて、平成十八年の八月に社会資本整備審議会の答申において、工事監理業務においての取りまとめが行われております。
今御指摘をいただいた部分は、建築主と工事監理者となる建築士との間での業務内容の確認を行い、その適正と第三者性などの実効性の確保を図るための措置を講ずべきという部分でございます。
この答申を踏まえまして建築士法等を改正いたしております。工事監理業務の契約締結前に、建築主に対し、その内容や実施方法について書面によりまして重要事項として説明をすることを義務付ける。あるいは、建築確認申請書に代表者だけではなくて工事監理を担当する全ての建築士の氏名等を記載することを義務付ける。あるいは、先ほどちょっと御説明申し上げました工事監理のガイドラインを国交省において策定をいたしまして具体的な方法を例示するといったような措置をとっております。また、これより前にも、実施した業務内容や実施方法について建築主や、中間検査あるいは完了検査時に報告をするというようなことも義務付ける制度も設けております。
こうした措置によりまして工事監理業務の適正化を図っているというところでございます。
○辰巳孝太郎君 今言っていただいたのは、第三者性という観点では極めて不十分なんですよ。つまり、今おっしゃっていただいたことをやったとしても、別に身内がやってもいいということにはなっているんですよ。
私が申し上げているのは、身内が工事監理者を本当にやっていいのかという問題提起であって、これしっかり国交省としてこれについての検討もしていただきたい。第三者的な立場でチェックをするという制度が私は必要だということを申し上げておきたいと思います。
続いて、工法について取り上げたいと思います。くい打ちの工法が適切だったのかということであります。
当該横浜のマンションで使われたのは、旭化成建材が開発したダイナウイング工法であります。この工法は、プレボーリング拡大根固め工法というものでありまして、旭化成建材によると、発生残土を従来よりも大幅に低減でき、高支持力を実現できるものということとしております。
このダイナウイング工法は大臣認定を受けておりますが、それは砂質地盤とれき質地盤に限られております。横浜のこのマンションの地盤は土丹層なんですね。つまり、認定工法ではなかったということが明らかになっております。旭化成建材によりますと、過去十年行った三千件以上の工事の中で、ダイナウイング工法を土丹層で使った例というのは当該マンション一件のみだということであります。
国交省に聞きますが、なぜわざわざ認定工法以外のものを採用したんでしょうか。
○政府参考人(由木文彦君) お答え申し上げます。
今御質問いただきました、まず、くいの大臣認定についてでございます。くいの特性を踏まえまして、地盤の種類に応じた支持力の算出方法について大臣認定をいたしております。これを受けた場合には、施工場所による試験が不要となるとともに、確認申請の際に添付をしなければならない書類を省略することができるというものでございます。
今御指摘をいただきましたように、この旭化成建材のダイナウイングという工法ですが、大臣認定を受けておりますが、これは、お話しいただきましたように、支持地盤の性質が特定をされた上で大臣認定を受けておりますので、この横浜のマンションでは、その大臣認定の適用範囲外として、特に特例を一切受けない形での使用ということになっております。
これがなぜ用いられたかということについてでございますが、これにつきましては、先ほど来、三井住友建設からヒアリングをしている、これは特定行政庁である横浜市と連携してやっているヒアリングでございますが、こうした中では、複数のくい事業者からの提案を受けた結果、現地での試験費用を要することも含めて勘案した上で、総合的に判断して選定したというふうに報告を受けているところでございます。
○辰巳孝太郎君 つまり、くいの本数を減らして残土量も大幅に減少させることができると。ですから、大臣認定工法外の土丹層でもやったということであります。
ところが、公益社団法人土木学会が行った興味深い工事施工業者に対するアンケート調査があります。ここでは、プレボーリング工法既製コンクリートくいの約半数は土丹層では施工不可能となっております。また、支持層の傾斜角が三十度以上となれば、これも約半数で施工不可能となっております。ちなみに、横浜のマンションの支持層は、旭化成建材によりますと最大で四十度の傾斜が付いております。
また、大臣認定を受けたプレボーリング拡大根固め工法、これ、全部で二十一工法あるんですが、そのうち、砂やれき、そして粘土、この三ついずれも大臣認定を取っているところは合わせて十四あるんですね。こうなりますと、私は粘土層について大臣認定を受けているこの十四についても、本当に大丈夫なのかと、検証が私は必要だと思います。
国交省、聞きますが、大臣認定をする指定性能評価機関は、この粘土層でもできるという認定をするときには、土丹層も含めて評価して認可をしているんですか。
○政府参考人(由木文彦君) 一般的なくいよりも強い支持力を設計時に用いるためには、原則として施工場所で試験用のくいを打設をいたしまして、必要な支持力を有しているかを現地で確認をする必要がございます。大臣認定を受けますと、この施工場所における試験が不要になるというのが一つの効果でございます。
今回の横浜の事案で用いられたダイナウイング工法でございますが、これはこの場所では大臣認定の適用範囲外でございますので、現地で施工場所において試験用のくいを打設して支持力の確認がなされております。設計時の支持力の設定や当該支持力の妥当性を確認するための試験データにおいては、確認検査機関においてチェックがなされているものというふうに承知をしております。
○辰巳孝太郎君 今、載荷試験ですよね。大臣認定の際に、土丹層も含めて個別に評価して大臣認定をしたのかということを聞いているんです。
○政府参考人(由木文彦君) 恐縮でございますが、今手元に実際に土丹をどこまでやっているかというちょっと資料の持ち合わせがございませんので、後ほど御回答申し上げます。
○辰巳孝太郎君 この大臣認定された粘土層での基礎ぐいの性能評価の際、土丹層でも性能評価がきちんと個別で行われたのかという資料を、委員長、提出を求めたいと思います。よろしくお願いします。
○委員長(広田一君) 後刻理事会の方で協議をいたします。
○辰巳孝太郎君 この問題の背景には規制緩和もあると言わなければなりません。九八年、建築確認検査機関を民間開放する建築基準法の改悪が行われました。また、二〇〇〇年には、基礎ぐいについても性能規定の導入の規制緩和が行われました。つまり、今回の場合、大臣認定を取得していなくても、載荷試験を現場で一回やれば、くいの許容支持力を自由に設定することが許されるということになりました。ですから、その結果、くいの数をそれだけ減らせますし、残土も出ないということになるわけです。
新しく開発された技術を現場に生かせるようにするということは私も必要だと思いますが、しかし、国民の安全、安心に関わる規制を緩和しておいてチェック機能体制を強化してこなかった、私は、行政の責任というのは指摘をしなければならないというふうに思っております。この建築基準法の改悪においても、我が党は、効率優先の規制緩和では安かろう悪かろうになるんじゃないかという警鐘を鳴らしてまいりましたし、今回の問題というのは、それが表面化、表層化したものだと考えております。
国民が安心して、また安全な住居に住めるために行政が果たさなければならない役割というのは大きいと思いますし、また、今回取り上げられませんでしたけれども、重層下請の問題、この問題も業界全体にはびこっておりますので、この問題も指摘をして、引き続き、参考人招致は旭化成建材ではなくて元請も含めてきちんとやっていただくことを求めて、私の質問を終わります。
ありがとうございました。