賃上げ・内需拡大こそ
参院の「デフレ脱却・財政再建に関する調査会」が26日開かれました。参考人からは賃上げや内需拡大に向けた政策の必要性が語られました。
日本共産党からは辰巳孝太郎議員が質疑に立ちました。
中央大学の建部正義教授は、人々の「インフレ期待」に働きかける日銀の金融政策は「世界に例を見ないものであり、危うい」と指摘。「法人税減税など企業優遇で景気がよくなる保証はない」「経済の立て直しのためには、物価上昇を上回る賃金引き上げが必要」と述べました。
京都大学大学院の藤井聡教授は、労働者の賃金が最低水準で推移していることも示し、「賃上げのためには実体経済の活性化が重要」と主張。内需拡大に向けた「戦略的、効果的な」公共事業の促進などを説きました。
2014年2月28日(金)赤旗より転載
議事録を読む 参考人陳述部分
○参考人(藤井聡君) それでは、京都大学の藤井がお話を申し上げたいと思います。
本日は、かような機会を頂戴いたしまして、誠にありがとうございます。(資料映写)
今日は、こちらに出ております「今、デフレ脱却のために必要なのは、「戦略的・財政政策」である」、こういう趣旨で二十分ほどお話し申し述べたいと思います。本日の私の発言は終始、京都大学教授としての、一学者としての立場でお話し申し上げるということを申し添えまして、今からお話しさせていただきたいというふうに思います。
まず、この「戦略的・財政政策」という言葉を使わせていただいた趣旨でございますが、例えば経済政策を行うときに、金融政策、財政政策、それからいろんな制度改変、こういったものが一般的な、どの国問わず一般的に理論的に考えられる経済政策と、こう呼ばれるんですけれども、これをばらばらに遂行していては方向が定まらなくて効果的な経済政策ができないということでございますので、そこで必要になってくるのは戦略性であります。
すなわち、様々な経済政策というものをどうやって一本にまとめていくのか、計画的に推進していくのか、合理的に推進していくのかということが大事であるというのがこの戦略的という言葉の意味であって、そしてその中心に財政政策というものがやはりデフレ脱却の中には重要になってくると。そういう意味で、全てを束ねながら財政政策を行っていくということが重要ではないかという意見を、今日は「戦略的・財政政策」という言葉にのせてお話ししたいというふうに思います。
まず、デフレ脱却を考える場合に、デフレとは何かを理解しないといけないんですが、デフレとは何かを理解する前に、地震とは何かからお話をしたいと思います。
地震の定義には例えば二つほど考えられます。地面が揺れること、あるいは地下で岩盤が割れること、この二つ、どちらが正しいのかというと、一般的に我々、非科学者であれば地面が揺れることが地震だと思っているんですが、科学的に言いますと、地震が起こるというのは、地面が揺れることではなくて地下で岩盤が割れることをいいます。これが科学的な地震の定義であり、これが地震の実態であります。これが物理世界で、実態的な社会でこれが起こったことで、その結果として地面が揺れるんだということが科学的な地震の定義であります。
この考え方でデフレというものを考えるとどうなるかというと、デフレといいますと、物価が下がる、貨幣量が少なくなる、あるいは貨幣の速度が、巡りが悪くなる、速度が低下すると。それに加えて、倒産、失業、所得が減ると、そういうことがあるわけでありますけれども、デフレという現象は全部この四つが同時並行で進んでいるものではありますが、どれが科学的な実態的な現象なのかというと、実は一、二、三ではなくて、四番目の、倒産、失業が増えて所得が減るというのがデフレ不況の正体なのだ、デフレの正体とはまさにここにあるのだということをまず地震の比喩から申し述べたいと思います。
そして、これが起こると皆さんお金を使わなくなるので貨幣の巡りが悪くなる、巡りが悪くなると一定期間の間で市場の中で使われるお金の量自体が減って、最終的に物価が下がるというふうになります。当然ながら物価が下がると需要が減りますので、もう一度倒産、失業が増えるということにもなって、スパイラルになるわけでありますが、実はこの四番、倒産、失業が増えるためには、物価が下がるだけで起こるのではなくて、例えばリーマン・ショックがあったり、あるいはバブルが崩壊したり、あるいは地震が起こったり、その他もろもろの様々な原因によってこの四番が起こると。この四番が起こると、これを起点として、さながら地下で岩盤が割れることが起点となって地面が揺れるようにこの一、二、三というものが起こって、そして更に地震よりも恐ろしいのは、これがスパイラル状に悪くなっていくというのがデフレの正体なのだということを申し述べたいと思います。
これを考えますと、必然的にデフレ脱却のために必要なものはこの二つになってくるということになるわけであります。倒産、失業を減らし所得を上げることがデフレ脱却において必要であるということが、これは理論的に、科学的に推測されるようになるわけであります。
そのために何が必要なのかということを考えますと、ここではAとB、申し述べておりますけれども、やはり財政政策、金融政策というものを一体的に推進することで国内産業に仕事をつくっていくということであります。これが、政府がそういう国内産業の働けるような仕事をつくることができれば、倒産、失業が減って所得が上がるという結果が生まれて当然デフレ脱却にできるということでありますが、それだけではなくて、雇用、中小企業、地域産業、こういったものを直接保護したり、あるいは支援をすることを通して倒産、失業が減っていったり所得が上がるということもあると。保護だけではなくて支援もしていくと、当然そういうデフレ脱却の、もう地下で岩盤が割れるそのもの、患部そのものを治療していくことができるようになるということを申し述べたいと思います。
しばしばこういうAとBという政策はカンフル剤だと呼ばれるんですが、私はこの言い方は間違いであると。場合によっては間違いの場合があると言った方が正確かもしれませんが、デフレ脱却のためにこのAとB、財政・金融政策といろいろな雇用、中小企業、地域産業保護・支援政策を行うというのは、カンフル剤ではなくて点滴なのだということを申し述べたいと思います。
この違いは何か。カンフル剤というのは、打つ前の状況にその薬が切れたら戻るということであります。これではやっても意味がない。しかし、点滴というものは、病気のときに打てば、適切に打てば、病気の体が健康体になってそれ以後点滴を打つ必要がなくなるということであります。例えば三本打つことが必要であるならば、三本打てばもう四本目も五本目も不要になると、これが点滴というものであります。ところが、三本打たないといけないときに一本とか二本しか打たなかったら、これは意味がない。病気に、元へ戻ってしまうということでありますから、こういう財政・金融政策と保護政策、支援政策というものはカンフル剤ではなくて点滴なのだという御理解を持っていただきたいということを一学者として持ってございます。
以上の理論的背景に基づきますとデフレ脱却の方法はどうなるかというプロセスをお話ししたいと思います。
まず、目的は、倒産、失業を減らし所得を上げるということでありますが、そのためには、実体経済、物やサービスが売り買いされているそういう経済が活性化すれば失業、倒産が減って所得が上がるということになります。実体経済を活性化していく、いろんな人がいろんな物を買うということになればこれは皆さんに仕事が回っていくということでありますが、ここの実体経済がぐるぐると回るためには、やはり金融市場からマネーが供給されないといけないと。言わば経済というものを人体として考えるのならば、言わば銀行というのは心臓のような役割を果たしているということで、お金というものをぐるぐる回すときに銀行というものは重要な役割を担うということであります。
銀行に預けられたお金を誰かが借りて、ここで書いておりますように、民間が借りてそれを市場で使えば、そして実体経済が活性化していってみんなに仕事が回るということになるのですが、デフレの場合は残念ながらみんな稼いだお金を貯金してしまって、内部留保にしてしまったりして余り使わないということになります。この絵でいきますと、これが小さくなると。そして、金融市場から実体経済にお金がなかなか流れなくなって、逆に実体経済のお金を金融市場が吸い上げるというような状況になっていきます。これはどういうことかというと、実体経済で稼いだ金をもう一回使うのではなくてずっと貯金に回してしまうという内部留保が増えるということであります。
こういう格好で、実体経済から金融市場に血流が逆流するようにマネーの流れが逆流してしまうのだというのが、これがデフレ病の一つの重要な症状なのであります。この状況が続く限りにおいて、実体経済は当然活性化せず、倒産、失業が減ったり所得が上がるということはなくなっていってデフレが悪化するということになりますから、重要なのは金融市場にあるマネーをどうやって実体経済に回すかということであります。
ここで、民間市場の方にそれを、お金を使ってもらえればいいんですが、これはトートロジーになりますけれども、デフレですからこれができないわけであります。これがデフレ病の厄介なところでありますので、そこの市場とは関係のない行動を取れる人がこれを行わなければならない。それは誰かというと、やはり中央政府を中心とした政府であります。政府がお金を金融市場で借りてしっかりと実体経済の中でお金を使っていくということがあれば、実体経済から金融市場に血流が、お金の流れが逆流しているのを逆にまた元どおりの正しい方向に流していくということができるようになってまいります。
このときに、ただただ実体経済を活性化するためにお金さえ使えば良いのかというと、決してそうではなくて、どうせお金を使うのならば適切にお金を使っていくということが必要であると。そして、今デフレのためにこのお金を、財政政策を取るのならば、そもそも雇用とか中小企業とか地域産業が疲弊しているというのがデフレの正体だったわけでありますから、その患部に直接に、まあ赤チンを塗ったり、何か薬を塗ったりするように、直接そこに財政政策を投入していくというような対策を取ることが極めて効率的なデフレ脱却政策になるのではないかと。同じ一兆円を使うんだったら適切にお金を使うべきなのだというのがこの「戦略的・財政政策」と私が申し上げたいポイントであります。これが要するにBというものであります。
さらに、この金融市場のお金をどんどんどんどん実体経済に流していくと、そのうち金融市場のお金が枯渇してきます。そうするといろいろな、クラウディングアウトとか金利の上昇とかいろいろな不具合が起こってまいりますので、その不具合を最小化する意味でも、きちんと日本銀行が、中央銀行が金融市場にマネーを供給していけば、このお金が、金融市場が枯渇していくということもなくなってまいります。
そして、このAの財政・金融政策、日本の場合でいいますとアベノミクスと呼ばれておりますけれども、これが第一、第二の矢というものになるわけであります。そういう格好で、このAとB、財政・金融政策と、いろいろな保護政策、支援政策を行うことで、日銀、金融市場、実体経済、そして国民、企業ということで、お金が正しい方向に流れていくという状況が出てくるわけであります。
ここで補足的なお話を、補足的に申し上げたいと思いますが、この金融政策は実は民間の需要と消費を刺激するというふうな効果を持っております。
例えば、一般に言われておりますのは、期待インフレ率が上昇していったり、あるいは金融政策をやることで期待が上がったり、あるいは資産効果といって株式が上がって、それで企業の価値が上がって、資産の価値が上がって、それで投資がしやすくなったり、あるいは円安が進んで輸出企業がもうかっていくようになるというような効果があるということも考えられるんですが、実際に考えてみますと、期待インフレ率を上昇させるためにはずっと驚かせ続けなければならないということで、これは驚かせて、それがしばらくばあっと緩和して期待インフレ率が上がっても、それを、最初は驚くかもしれませんけれども、ずっと続けているうちにそれで慣れてしまうとそういう効果がなくなってしまうと。こういうのを一般に何と言うかというと、カンフル剤と呼ばれるのではないかなと考えられるわけであります。
資産効果の方は、上場企業にとっては当然ながら株式市場が上がっていって企業価値が上がっていくということがいいわけでありますけれども、ほとんどの上場企業でない中小企業に関しては直接的な効果が必ずしもあるわけではないという点を我々理解しなければなりませんし、為替効果に至っては、輸出企業はもうかるかもしれないですけれども、例えばエネルギーを、何かの都合によってエネルギーの油とかガスをたくさん購入しないといけないような国家、そういう状況においては原油価格とかガス価格が上がることを意味しますから、かえって円安になることで貿易赤字が悪化するということもありますし、例えば日本の状況ではまさにそういう状況にありますから、何と昨年の貿易赤字は一昨年よりも更に更に拡大してしまっていて、トータルとしては経常収支はまだ黒字ではあるんですけれども、経常収支も悪化しているというのが実態の客観的事実でございますから、そういうこともありますので、余りにこの金融政策による民需拡大効果というものを期待し過ぎるのは危険性を一部はらむ、一部というか結構はらむものではないかという危惧を当然ながら学者も政策担当者も持たなければならないということは理論的に当然考えられるわけであります。
ところが、じゃ、民間が借りてお金を使うというこの消費・投資、民間消費・投資が活性化されることはないのかというと、決してそんなことはございません。実体経済が活性化すれば、放っておいてもみんな金を使うようになります。すなわち、実体経済の活性化によって、この民間が借りてお金を使うという部分が大きくなります。そうなると、金融市場から実体経済の方にお金がどんどん流れていくようになりますから、そうなると財政政策は不要になります。
ということで、今やった治療行為は全部要らなくなります。全部要らなくなって、日銀、金融市場、実体経済、そして国民、企業ということで、お金が正しい方向に流れていくのであって、これこそが今デフレ脱却のために必要な政府がなすべきことなのだというふうに私は理論的に考えているわけでございます。これは私は理論的に確信している流れでございます。
以上は一般論でございますが、日本経済の状況はどうかというと、デフレであることは皆さん共有認識になってまいりましたが、快方に向かっているということも共有認識になっています。例えば、倒産数は減っていますし、失業率も下がりました。そして、物価の方も徐々に上がってきているので、確かにデフレは緩和しつつあることは間違いないですが、残念ながら完治には程遠いという状況であります。
例えば、実質GDPは、年末の状況では二、三%上昇するのではないかと多くの人々が年始の状況では皆さん予想していたのですけれども、駆け込み需要があるにもかかわらず、結果を見てみると、蓋を開けると一%しか上昇していないということであって、快方には向かっているんですが、完治からは程遠いということが考えられるわけであり、更に恐ろしいことに、労働者の平均の給与、すなわち現金給与総額というものは、九〇年の調査開始以降最低水準の記録を更新してしまったのが昨年でございます。
ということで、このデータを見た上で、もうデフレは脱却したんだということは誰も言うことができないはずだということを一学者として心の底から確信している状況でございます。そんな中で、更に増税が行われ、しかも補正予算が削減されるというショックがあるわけでございますから、これはひどい肺炎から治りかけたのに町内マラソン大会に出なあかんというような最悪な状況にあるのではないかということを私は一人で夜中、心配しているわけでございます。
ということで登場するのが、日本経済危機仮説でございます。これは当然ながら一学者の単なる仮説であって、事実かどうかは皆様に御判断いただきたいところでありますが、この仮説を思っている理由は四つでございます。一、二、三、四。
一、四月以降、増税による消費、投資の低減、これは皆さん御案内のとおり。
二番目、この増税に加えて、補正予算が削減されます。それによって内需が、政府関係の内需が十一兆円程度削減するのではないかということが予期されています。
この計算はこうなっています。補正予算が十兆円から五・五兆円に削減し、四・五兆円減ります。当初予算は一応一・八兆円プラスになるんですけれども、しかしながら増税で八兆円が、内需が削られてしまうということも危惧されます。これを全部勘案するとプラス・マイナス十一兆円の崖ができる。これは言わばアメリカ経済の財政の崖なんという言葉に倣って言いますと、日本版財政の崖、十一兆円の崖ができ上がるのではないかということが危惧されますし、駆け込み需要があり、それが四月以降の需要を前借りしているのだとしたら、それも二兆円前借りしていたらここに四兆円の崖が例えばできてきますから、これが一番、①の効果でありますけど、それを考えると四月一日以降とんでもない崖ができ上がるということは理論的に予期されるわけであります。
さらに、三番目として、ヨーロッパ、アメリカ、中国経済が非常に不安定化していて、さらに来年度中とかにリーマン・ショック・パートツーみたいなものが起こらないとも限らないわけであります。例えば、FRBの金融引締めを行っておりますので、これがアメリカの株安をもたらし、日本の株を安くするという可能性も危惧されます。中国のシャドーバンク問題というものもあります。さらに、ユーロ危機というものもあって、世界は非常に火種だらけでありますので、非常に危機的な状況にあって、これが日本経済にダメージを与えることも危惧されます。
しかも、財出が少ない中、金融緩和ばかりやり過ぎると、日本銀行から金融緩和、ここにマネーがたまって実体経済の方にお金が流れていかないと、金融経済だけがもう肥大化していきます。そうなったときに起こるのは、一般的にミンスキー先生等々が言っているのはバブルというものであります。そして、バブルというものは定義上、必ずはじけるものでございますから、このまま何も内需拡大策が取られないまま金融緩和が続けられていくと、そのうちマネーが滞留してバブルと、そしてそのバブルの崩壊の危機が増進してしまうと。これは日本で起こるとも限らなくて、この日本の金融緩和が、アメリカで起こったり諸外国で起こるということすらこのグローバル化時代には起こる可能性すらあります。この四番の確率は一番とか二番の確率よりは低いわけではありますけれども、こういうリスクがあるということは、政策担当者、そして学者は当然ながら心の中にとどめておくべきであると私は確信しているわけであります。だから、今こそ徹底的な財政出動を行って内需を拡大していくことが必要ではないかと考えるんですが。
次が最終のスライドでございますが、しつこいようですが、どうせ財政政策をやるんだったら、きちんとデフレから脱却できるように適切な、うまいお金の使い方をするべきだというふうに私は考えます。そのときに考えている対策は、一応この五つほど考えてまいりました。
これ、一例でございますけれども、例えば、元々デフレというものは中小企業が疲弊していることで起こっているというのが原因でありますから、中小企業対策ですね。これは、中小企業融資とか投資ファンドというものを異次元のレベルで数兆円規模で例えばつくって、これで徹底的に投資をしていくと。そうすることで中小企業の倒産をどんどん防いでいったり、収益を上げていったりとかということも対策一として考えられますし、あるいは、どうせお金を使うんだったら、将来の成長に役立つようなエネルギーインフラとかITインフラとか貿易インフラとか運輸インフラとかを造っていったり、あるいは人的な、あるいは知識的な将来の成長の起爆剤であります教育とか研究開発の投資をしていったりというものにお金を使っていったり。当然ながら、このときに外国企業を優遇しては意味がなくて、国内企業に発注していくことでデフレという病気が治療されていくというのは先ほどの定義上自明であります。
対策三というのは、将来の成長の阻害要因の除去のための投資、これはややこしいことを申し上げていますけど、例えば地震が来ると十年後のGDPがそれこそ五十兆とか六十兆とか低下しているかもしれませんけど、ここで防災投資、強靱化投資というものをやっておけば十年後のGDPの低下というものを最小限に食い止めることができるということが考えられるとすると、これは立派な成長戦略そのものだということが言えるというふうに思います。したがって、例えば防災投資、強靱化投資、老朽化対策というのは将来のマイナス成長を小さくするというプラス成長、マイナス掛けるマイナスはプラスでございますから、そういう効果があるだろうというのが対策三であります。
以上の対策一、二、三は政府がやるべきこととして今申し述べたわけでありますけど、こういった投資を民間がやりやすくするような対策というものをやっていくというのが対策四であります。投資減税、投資補助、そのための制度の見直し、規制緩和等々が考えられるでしょう。そして、この公共事業の単価の適正化というのは、建設企業において建設産業自身の投資を拡大していくための対策としてここに書かせていただいておりますけれども、そういうものをやることで建設供給能力が向上して、それを通して更に公共投資というものが進むことでこの対策二というものがどんどん進んでいくということも考えられるということも考えられます。
対策五でありますけれども、この一、二、三、四、いろいろなこういう対策、考えられますけれども、こういうものを万一阻害するような検討が実際に進められているとするのならば、例えば過当競争の促進とか、あるいは過剰な雇用の流動化政策の促進とかそういうものが進められては、元々この一、二、三、四を通して倒産とか失業とか所得の低減を防ごうという対策をしているときに過当競争とか過剰な雇用流動化なんていうものをやってしまうと元のもくあみになってしまいますから、そういうものがあるのかどうかということを確認したり、確認してあったとするならば見直しをしていくということも重要になってくるのではないかなというふうに思います。
こうした戦略的な財政政策、これを、ここでアベノミクスという言葉を使うのならば、第一の矢、第二の矢、第三の矢をしっかりと毛利さんのように一本にまとめて、そして折れないようにしてまとめてコーディネートして、しっかりと財政、金融、成長戦略というものをコーディネートしながら戦略的に政策を行っていくということが今なすべき経済政策なのではないかなと思います。
付録に関しては、いろいろとデータがございますが、また御質問をいただいたときに必要に応じてお話しいたしたいと思います。
ありがとうございました。
○会長(鴻池祥肇君) ありがとうございました。
次に、建部参考人にお願いをいたします。建部参考人。
○参考人(建部正義君) お手元に五枚から成るレジュメが届いていると思います。それに即しながら説明したいと思います。
この調査会の名称は、デフレ脱却、財政再建ということなんですけれども、私の今日の報告、報告といいますか説明は、基本的にまず金融の問題について、あるいは金融の立場からデフレ脱却という問題をどう考えるべきか、それについて発言させていただきます。もちろん財政についても私なりに意見を持っておりますけれども、その点については質疑の中で私なりの意見を述べさせていただく、そういう形にしたいと思います。
それで、レジュメの一ですけれども、これは量的・質的金融緩和政策の内容を黒田さん自身の講演に即して整理しました。これは既に御承知のことということですので説明は省略させていただきます。
ただ、確認しておきたいのは、一の③、「わかりやすい金融政策」のうちの二つ目の柱ですけれども、量的な緩和を行う場合の指標としてマネタリーベース、マネタリーベースというのは上の方に説明しておきましたけれども、日銀券発行高プラス市中銀行保有日銀当座預金残高、これを足し合わせたもの、これは、従来、日銀は金利を指標として金融政策をやっていたわけですけれども、昨年の四月四日以降、量的指標に政策的な指標を変更している、この点を後の議論との関連で確認しておきたいと思います。
それで、よく誤解されていることなんですけれども、黒田日銀総裁下の量的・質的金融緩和というのは、グローバルスタンダードにやっとたどり着いたんだ、世界標準に即したそういう金融政策がなされているという意見が多いんですけれども、私に言わせるとそうじゃなくて、まさに世界の中央銀行がやったことのない新しい歴史的な実験、それが進められているんだ。
このこと自身、そうですね、昨年の九月あるいは十一月頃から黒田さん自身が講演の中で明確に発言するようになりました。二、三拾っておきましたけれども、一ページ目の一番下ですね、昨年の九月二十日、きさらぎ会において黒田さんはこういうことを言っています。二ページ目に入りますけれども、量的・質的金融緩和は、中央銀行にとって主たる政策手段である短期金利の引下げ余地がなくなる中で、予想インフレ率を引き上げる、予想インフレ率を引き上げるというのはこれは世界最初です、という世界的にも過去に例のない問題に対する挑戦です。それから、十月十日のブレトンウッズ委員会インターナショナル・カウンシル・ミーティングではこういうふうに言っています。同じ内容ですけれども、量的・質的金融緩和は、名目金利の引下げ余地がなくなる中で、予想物価上昇率を引き上げるという世界的にも過去に例のない、どっちにも「世界的にも過去に例のない」、こういう言葉が出てきますよね。この点をしっかり押さえていただきたいというふうに思います。
じゃ、どの点で新しいのかというと、これもニューヨークでの十月十日の講演ですけれども、こういうふうに説明しています。
日本では、予想インフレ率は二%の物価安定の目標と比べて低過ぎる水準にありますので、これを引き上げる余地が十分にあります。このとき、名目金利を予想インフレ率の上昇よりも小さめの上昇に抑制することができれば、その分だけ実質金利を低下させることができます。この実質金利の低下によって設備投資や個人消費が刺激されることで景気が押し上げられ、実際の物価も徐々に上昇していくと期待できます。そして、実際の物価上昇はインフレ予想の上昇にもつながります。
つまり、思い切った量的緩和をやって予想インフレ率を引き上げる、予想インフレ率が上がるということになれば名目金利も上がるじゃないか、そうしたら元も子もなくなるということで、年間五十兆円程度の長期国債を日銀が買い取る、そういう形で名目金利は低く抑えるんだ、そうすると、この中にも出てきますように、実質金利が下がるだろう、実質金利が下がれば設備投資も個人消費も増えるはずだ、そういう形でデフレが脱却できる。まさに、予想インフレ率に働きかけるという意味で、繰り返しになりますけれども、世界に例のない、そういう金融政策が取られているんだと。
そうすると、次の問題は、アメリカだって量的緩和政策やっているじゃないか、黒田さんのやっているのと同じというふうに考えられないかということですが、この点も私に言わせると誤解されていまして、バーナンキがやっていた、バーナンキもう替わりましたけれども、バーナンキがやっていた、あるいは現在FRBがやっている政策というのは金利に対する働きかけなんですよね。予想インフレ率に対する働きかけではありません。
ちょっと長くなりましたけれども、バーナンキがビジネススクールで四回連続の講演をやった、それが日本語に翻訳されているんですけれども、連邦準備制度と金融危機、非常に明快なことを言っております。
諸君は通常の金融政策については知っていると思います。通常の金融政策はフェデラルファンズ金利、これは日本でいうコールレートのことですね、通常の金融政策はフェデラルファンズ金利と呼ばれるオーバーナイトの金利の管理を必要とします。短期金利を上げたり下げたりして連邦準備はより広範な金利に影響を与えることができます。そして、それが次に消費支出、住宅の購入、企業による設備投資などに影響を与え、それらが経済の生産に対する需要を提供し、成長への回復を刺激するという点において役に立つのです。これは伝統的な金融政策の中身ということで、まさに金利政策ですよね。
ところが、アメリカの場合、もうやっぱりゼロ金利という、そういう限界に到達するわけで、本質的には、二〇〇八年十二月までにフェデラルファンズ金利は基本的にゼロまで引き下げられた。それ以上引き下げられない。どうするかということで、それで、マスコミでは、その下の部分ですけれども、マスコミでは量的緩和、英語で言うとクオンティタティブイージングですけれども、むしろバーナンキは、その言葉は使いたくないんだ、私としてはLSAP、ザ・ラージスケール・アセット・パーチェシズ、大規模資産購入と言う方が適切なんだ。
大規模な資産を購入するとどういう効果を持つのかというと、下の四行ですね。では、これはどのように機能するのでしょうか。より長期の大規模な、しかも長期の国債を買い入れるということで、より長期の金利に影響を及ぼすために、連邦準備は国債の大量購入を実施し始めました。国債を購入して我々がバランスシートに計上し、これらの国債の入手可能な供給を減らすことによって我々はより長期の国債の金利を実際に引き下げたんだ。
アメリカでやっている量的緩和というのは、実質的には金利政策なわけですよね。短期金利はもう限界に達した、ゼロという限界に達した。長期金利を引き下げますよ、そういう政策を我々はやったんだという、こういうことであります。
話が戻りますけれども、ですから、黒田さんがやっている現在の量的・質的金融緩和というのは、誤解はされていますけれども、アメリカと同じものではないんだという、そこを強調したいわけです。
そうすると、黒田さんの場合は期待インフレ率に働きかけようというわけですから、そういう政策というのは経済学的に考えてどういう位置付けになるのかということで、二つほど他の人の発言の引用を取っておきました。
一つは、白川さんが昨年の三月十九日に退任記者会見されたときにこういうふうに発言されています。期待に働きかけるという言葉が中央銀行が言葉によって市場を思いどおりに動かすという意味であるとすれば、そうした市場観、政策観には私は危うさを感じます。もう辞められたもので、白川さんの発言というのは無視されがちですけれども、私に言わせると、こういう非常に重要なことを言っていたんだということになります。
それから、慶応大学の池尾さんですけれども、池尾さんというのは非常にキャッチフレーズを作るのがうまいなという、後の方で出てきますけれども、気合さえ入れれば信じてもらえるというのは、信仰の表明ではあっても、到底ロジカルな主張だとは言い難い。期待に働きかける、そういう金融政策のことを、気合さえ入れればそれで事が済むのかと、そんなものじゃないだろうというふうに言っているわけですね。私もまさに池尾さんの言うとおりだというふうに感じます。
それで、問題は、期待に対する働きかけという金融政策がうまく機能しているということであれば特に異論を唱えることもないわけですけれども、その次は、今年の一月二十四日付けの日本経済新聞の記事です。日本経済新聞はこの間、一貫してアベノミクス、あるいはその一環としての黒田総裁が進めている日銀の量的・質的金融緩和政策、これを擁護するといいますか後押しする、そういう記事が目立ってきました。ところが、その日経新聞でもこういうふうに言わざるを得なくなっているわけですね。
順調に見える物価改善は円安の恩恵が大きい。野村証券の試算では、去年の十一月ですね、十二月は一・三%になっていますけれども、十一月の物価上昇率は一・二%だった。そのうち〇・七%分は円安に伴うエネルギー価格の上昇による効果だ。円安と公共投資頼みの物価回復では持続力に欠ける。民間予測平均の一五年度、来年度ですね、一五年度、二%の物価上昇を実現する、日銀が目標年度にしている、それが一五年度ですけれども、物価上昇率は一%弱にとどまり、日銀の二%程度に及ばないとの見方は根強い。実は日銀調査統計局も物価の先行きを慎重に見ている。右肩上がりの改善を終え、夏にかけて、今年の夏ですね、夏にかけては一%前半程度で物価上昇率が推移する、そういう高原状態に移るだろう。
こういうふうに問題を整理してくると、理論的にも期待に働きかける政策というのは非常に危うさを含んでいると同時に、実態に照らしても必ずしもうまくいっていないんではないか、そういうことになります。
そこで、いよいよデフレについての話ということになりますけれども、問題は、デフレは貨幣的な現象なのかということですよね。貨幣的現象であるということになれば、これは日銀の責任ですよ、こういうふうに話が進むわけで、金融政策何とかしろ、こういうことになります。
安倍さん、あるいは黒田さんですけれども、安倍さんの発言は首相になった後のものです。それから、黒田さんのものは総裁になる前のものですけれども、安倍さんはデフレは貨幣的現象だと明確に言い切るわけですね。黒田さんはちょっとトーンが違いますけれども、デフレ脱却の責任は日銀にある、要するに日銀の政策次第でデフレは脱却できるよ、そういうことになるわけですけれども、じゃ、こういうことですよね、日銀は経済が必要とするお金を必要なだけ十分に供給しなかった、だからデフレが起こっているのかと、そういうことになります。
ところが、これも事実を調べてみれば分かる話で、まず日銀券の流通量ですよね。例えば、経済の世界ではヘリコプターマネーという言葉があります。日銀がヘリコプターで空からお金をまく、それを国民が拾ってそれを消費に充てる、その場合には日銀券の発行量あるいは発行高、これ日銀が決めるというふうに言えますよね。だけども、企業だとか家計は、自分たちが市中銀行に持っている預金を解約して日銀券を手に入れるわけですよね。クリスマスだ、年末、お正月だということになると手元に現金が欲しい。市中銀行に行って窓口から現金を下ろして、それで小売店なら小売店で使いますよ。小売店は余った日銀券を市中銀行に持ち込んで預金にする。こういう形で日銀券が流通しているわけで、これもやや誤解が多いんですけれども、日銀券の流通量は日銀ではなく企業、家計がその決定者であって、日銀は出ていく日銀券については受動的に対応するしかない。
大体、今、日銀券はどの程度流通しているんだということですけれども、これ、四月四日が量的・質的金融緩和の発表された時点ですから、昨年の三月末の数字を取ってみました。八十三兆円ですね、八十三兆円。これを国民一人当たりに直しますと、私もいつもびっくりするんですけれども、約六十五万円です。こういう状況で、日銀券が不足だ、あるいは日銀が必要な銀行券を発行していないなんてとても言えませんよね。
それから、日銀当座預金について見ても同じです。白川さんの時代にも金融緩和措置が相次いでとられていました。私に言わせると、もうその時代から日銀はじゃぶじゃぶと言えるほどの当座預金を市中銀行に供給してきたんだ。
準備預金制度というのが我が国にはありまして、法律上、必要準備というのが決められています。法定準備は八兆円ですけれども、それに対して日銀が供給している準備預金というのは五十三兆円。四十五兆円も超過するという形で供給しているわけですね。ここからも、日銀が必要な貨幣量を供給しない、そのためにデフレが起こっているなんてことはとても言えませんよ。
その後、また白川さんの言葉ですけれども、マネタリーベースと物価との関係を調べてみると、マネタリーベースは増えているけれども物価はちっとも上がらないじゃないか、貨幣数量説、あるいはマネタリストが言っていることと日本の現実とは相応しませんよ、そういうことを言っています。
そうなると、一体デフレの本当の原因は何なんだということになります。これも最近随分論調が変わってきたなと思うんですけれども、日銀の審議委員の佐藤さんという方がいらっしゃいます。昨年の二月六日の講演ですけれども、こういうふうに言っているんですよね。日銀の現役の審議委員ですよね。それにしても日本はなぜ十数年もの間、デフレから抜け出せないのであろうか、その主因は賃金にあると考えている。もう時間がありませんので、ずっと下の方に行きますと、したがって、物価安定の目標である二%の消費者物価上昇率を目指すには、とにもかくにも賃金の回復が重要である。現役の審議委員がこういうふうに言っている。
それから、吉川洋東大教授ですね、小泉さんの時代の経済財政諮問会議の民間議員でしたけれども、この人が昨年、「デフレーション」という本を出しました。非常に評判を呼んだ本ですけれども、そこでもこういうふうに書かれているわけですね。最後のページに行っていただいて、二行目、なぜ日本だけがデフレなのかという問いに対する答えは、日本だけで名目賃金が下がっているからだ、はっきりとこういうふうにこの本の中で断定しているわけです。
それから、黒田さんでさえ、昨年の、これはたまたま五月二十三日の記者会見の中身を取り上げましたけれども、何度か記者会見で同じことをおっしゃっています。黒田さんでさえ、二%の物価安定の目標は、消費者物価の対前年比上昇率が二%という水準に達するということを目標としていますが、まあそこまでは金融政策で持っていけるよという、そういう意味が含まれているのかもしれませんけれども、とにもかくにも、その持続的な達成は、賃金や雇用も改善する、言わば生産、所得、支出とのバランスの取れた改善が続かなければ容易ではない。黒田さんでさえ、金融政策だけじゃなくて、やっぱり賃金も雇用も改善しないとデフレの本当の克服にはつながらない、こういうふうに考えているんだと思います。
その次に、先人の箴言ということで、私はマルクス経済学者なのでマルクスから引用しておきましたけれども、資本主義的生産様式における矛盾、商品の買手としての労働者たちは市場にとって重要である、しかし、彼らの商品の売手としては、資本主義社会はそれを最低限の価格に制限する傾向を持つ。
つまり、賃金というのは、企業から見るとコストであると同時に自分の商品を買ってくれる需要の側面を持っているわけですね。両面持っている。ところが、コストということを重視する余り賃金を下げちゃった、デフレになったよと。それはそうですよね。日本では個人消費の比率はGDPの六〇%です。そこの部分を下げちゃうわけですから、当然物価が下がる、デフレになるということになるわけで。ケインズも合成の誤謬という言葉を使っておりまして、要するに個々の企業が合理的、つまり賃金を下げるということですね、個々の企業が合理的に行動したとしても、経済全体としては、ケインズの言葉で言うと有効需要ですよね、有効需要が減っちゃって不況になっちゃうよ、そういうことを合成の誤謬というふうに呼んでいます。
最後の結論ですけれども、ですから、結局インフレターゲティングを今日銀がやっているわけですけれども、賃上げターゲティングという、そういう方向に政策転換する必要があるんではないかと。ただ、その賃上げターゲティングということになると、もう金融政策から離れます、政府の広い意味での経済政策の一環ということになるわけで。じゃ、賃上げ、どの程度かといいますと、これは日銀が試算しているんですけれども、消費税率が三%上がった場合、消費者物価はどの程度上がるかというと、二%程度だろうと。そうすると、この分を埋め合わせてなお賃上げが必要ということになると三%以上という、そういう数字が出てくるんではないかと。
財源というのは、これも最近ではいろいろあちこちで言われていますけれども、大企業の内部留保は二百七十兆円もあるよ、そのうち現預金、これは中小企業も含んだものですけれども、現預金は二百三十兆円もあるでしょう。
そうすると、日銀は何もしなくてもいいのかと。もちろんそういうわけではありません。さっきFRBのLSAP政策を紹介しました。私に言わせると金融政策の王道は金利政策にあるわけで、ですから長期金利に働きかける、そういう意味で金融政策は依然として有効であるし、日銀はそういう政策を取るべきである、こういうふうに考えております。
以上です。
本日は、かような機会を頂戴いたしまして、誠にありがとうございます。(資料映写)
今日は、こちらに出ております「今、デフレ脱却のために必要なのは、「戦略的・財政政策」である」、こういう趣旨で二十分ほどお話し申し述べたいと思います。本日の私の発言は終始、京都大学教授としての、一学者としての立場でお話し申し上げるということを申し添えまして、今からお話しさせていただきたいというふうに思います。
まず、この「戦略的・財政政策」という言葉を使わせていただいた趣旨でございますが、例えば経済政策を行うときに、金融政策、財政政策、それからいろんな制度改変、こういったものが一般的な、どの国問わず一般的に理論的に考えられる経済政策と、こう呼ばれるんですけれども、これをばらばらに遂行していては方向が定まらなくて効果的な経済政策ができないということでございますので、そこで必要になってくるのは戦略性であります。
すなわち、様々な経済政策というものをどうやって一本にまとめていくのか、計画的に推進していくのか、合理的に推進していくのかということが大事であるというのがこの戦略的という言葉の意味であって、そしてその中心に財政政策というものがやはりデフレ脱却の中には重要になってくると。そういう意味で、全てを束ねながら財政政策を行っていくということが重要ではないかという意見を、今日は「戦略的・財政政策」という言葉にのせてお話ししたいというふうに思います。
まず、デフレ脱却を考える場合に、デフレとは何かを理解しないといけないんですが、デフレとは何かを理解する前に、地震とは何かからお話をしたいと思います。
地震の定義には例えば二つほど考えられます。地面が揺れること、あるいは地下で岩盤が割れること、この二つ、どちらが正しいのかというと、一般的に我々、非科学者であれば地面が揺れることが地震だと思っているんですが、科学的に言いますと、地震が起こるというのは、地面が揺れることではなくて地下で岩盤が割れることをいいます。これが科学的な地震の定義であり、これが地震の実態であります。これが物理世界で、実態的な社会でこれが起こったことで、その結果として地面が揺れるんだということが科学的な地震の定義であります。
この考え方でデフレというものを考えるとどうなるかというと、デフレといいますと、物価が下がる、貨幣量が少なくなる、あるいは貨幣の速度が、巡りが悪くなる、速度が低下すると。それに加えて、倒産、失業、所得が減ると、そういうことがあるわけでありますけれども、デフレという現象は全部この四つが同時並行で進んでいるものではありますが、どれが科学的な実態的な現象なのかというと、実は一、二、三ではなくて、四番目の、倒産、失業が増えて所得が減るというのがデフレ不況の正体なのだ、デフレの正体とはまさにここにあるのだということをまず地震の比喩から申し述べたいと思います。
そして、これが起こると皆さんお金を使わなくなるので貨幣の巡りが悪くなる、巡りが悪くなると一定期間の間で市場の中で使われるお金の量自体が減って、最終的に物価が下がるというふうになります。当然ながら物価が下がると需要が減りますので、もう一度倒産、失業が増えるということにもなって、スパイラルになるわけでありますが、実はこの四番、倒産、失業が増えるためには、物価が下がるだけで起こるのではなくて、例えばリーマン・ショックがあったり、あるいはバブルが崩壊したり、あるいは地震が起こったり、その他もろもろの様々な原因によってこの四番が起こると。この四番が起こると、これを起点として、さながら地下で岩盤が割れることが起点となって地面が揺れるようにこの一、二、三というものが起こって、そして更に地震よりも恐ろしいのは、これがスパイラル状に悪くなっていくというのがデフレの正体なのだということを申し述べたいと思います。
これを考えますと、必然的にデフレ脱却のために必要なものはこの二つになってくるということになるわけであります。倒産、失業を減らし所得を上げることがデフレ脱却において必要であるということが、これは理論的に、科学的に推測されるようになるわけであります。
そのために何が必要なのかということを考えますと、ここではAとB、申し述べておりますけれども、やはり財政政策、金融政策というものを一体的に推進することで国内産業に仕事をつくっていくということであります。これが、政府がそういう国内産業の働けるような仕事をつくることができれば、倒産、失業が減って所得が上がるという結果が生まれて当然デフレ脱却にできるということでありますが、それだけではなくて、雇用、中小企業、地域産業、こういったものを直接保護したり、あるいは支援をすることを通して倒産、失業が減っていったり所得が上がるということもあると。保護だけではなくて支援もしていくと、当然そういうデフレ脱却の、もう地下で岩盤が割れるそのもの、患部そのものを治療していくことができるようになるということを申し述べたいと思います。
しばしばこういうAとBという政策はカンフル剤だと呼ばれるんですが、私はこの言い方は間違いであると。場合によっては間違いの場合があると言った方が正確かもしれませんが、デフレ脱却のためにこのAとB、財政・金融政策といろいろな雇用、中小企業、地域産業保護・支援政策を行うというのは、カンフル剤ではなくて点滴なのだということを申し述べたいと思います。
この違いは何か。カンフル剤というのは、打つ前の状況にその薬が切れたら戻るということであります。これではやっても意味がない。しかし、点滴というものは、病気のときに打てば、適切に打てば、病気の体が健康体になってそれ以後点滴を打つ必要がなくなるということであります。例えば三本打つことが必要であるならば、三本打てばもう四本目も五本目も不要になると、これが点滴というものであります。ところが、三本打たないといけないときに一本とか二本しか打たなかったら、これは意味がない。病気に、元へ戻ってしまうということでありますから、こういう財政・金融政策と保護政策、支援政策というものはカンフル剤ではなくて点滴なのだという御理解を持っていただきたいということを一学者として持ってございます。
以上の理論的背景に基づきますとデフレ脱却の方法はどうなるかというプロセスをお話ししたいと思います。
まず、目的は、倒産、失業を減らし所得を上げるということでありますが、そのためには、実体経済、物やサービスが売り買いされているそういう経済が活性化すれば失業、倒産が減って所得が上がるということになります。実体経済を活性化していく、いろんな人がいろんな物を買うということになればこれは皆さんに仕事が回っていくということでありますが、ここの実体経済がぐるぐると回るためには、やはり金融市場からマネーが供給されないといけないと。言わば経済というものを人体として考えるのならば、言わば銀行というのは心臓のような役割を果たしているということで、お金というものをぐるぐる回すときに銀行というものは重要な役割を担うということであります。
銀行に預けられたお金を誰かが借りて、ここで書いておりますように、民間が借りてそれを市場で使えば、そして実体経済が活性化していってみんなに仕事が回るということになるのですが、デフレの場合は残念ながらみんな稼いだお金を貯金してしまって、内部留保にしてしまったりして余り使わないということになります。この絵でいきますと、これが小さくなると。そして、金融市場から実体経済にお金がなかなか流れなくなって、逆に実体経済のお金を金融市場が吸い上げるというような状況になっていきます。これはどういうことかというと、実体経済で稼いだ金をもう一回使うのではなくてずっと貯金に回してしまうという内部留保が増えるということであります。
こういう格好で、実体経済から金融市場に血流が逆流するようにマネーの流れが逆流してしまうのだというのが、これがデフレ病の一つの重要な症状なのであります。この状況が続く限りにおいて、実体経済は当然活性化せず、倒産、失業が減ったり所得が上がるということはなくなっていってデフレが悪化するということになりますから、重要なのは金融市場にあるマネーをどうやって実体経済に回すかということであります。
ここで、民間市場の方にそれを、お金を使ってもらえればいいんですが、これはトートロジーになりますけれども、デフレですからこれができないわけであります。これがデフレ病の厄介なところでありますので、そこの市場とは関係のない行動を取れる人がこれを行わなければならない。それは誰かというと、やはり中央政府を中心とした政府であります。政府がお金を金融市場で借りてしっかりと実体経済の中でお金を使っていくということがあれば、実体経済から金融市場に血流が、お金の流れが逆流しているのを逆にまた元どおりの正しい方向に流していくということができるようになってまいります。
このときに、ただただ実体経済を活性化するためにお金さえ使えば良いのかというと、決してそうではなくて、どうせお金を使うのならば適切にお金を使っていくということが必要であると。そして、今デフレのためにこのお金を、財政政策を取るのならば、そもそも雇用とか中小企業とか地域産業が疲弊しているというのがデフレの正体だったわけでありますから、その患部に直接に、まあ赤チンを塗ったり、何か薬を塗ったりするように、直接そこに財政政策を投入していくというような対策を取ることが極めて効率的なデフレ脱却政策になるのではないかと。同じ一兆円を使うんだったら適切にお金を使うべきなのだというのがこの「戦略的・財政政策」と私が申し上げたいポイントであります。これが要するにBというものであります。
さらに、この金融市場のお金をどんどんどんどん実体経済に流していくと、そのうち金融市場のお金が枯渇してきます。そうするといろいろな、クラウディングアウトとか金利の上昇とかいろいろな不具合が起こってまいりますので、その不具合を最小化する意味でも、きちんと日本銀行が、中央銀行が金融市場にマネーを供給していけば、このお金が、金融市場が枯渇していくということもなくなってまいります。
そして、このAの財政・金融政策、日本の場合でいいますとアベノミクスと呼ばれておりますけれども、これが第一、第二の矢というものになるわけであります。そういう格好で、このAとB、財政・金融政策と、いろいろな保護政策、支援政策を行うことで、日銀、金融市場、実体経済、そして国民、企業ということで、お金が正しい方向に流れていくという状況が出てくるわけであります。
ここで補足的なお話を、補足的に申し上げたいと思いますが、この金融政策は実は民間の需要と消費を刺激するというふうな効果を持っております。
例えば、一般に言われておりますのは、期待インフレ率が上昇していったり、あるいは金融政策をやることで期待が上がったり、あるいは資産効果といって株式が上がって、それで企業の価値が上がって、資産の価値が上がって、それで投資がしやすくなったり、あるいは円安が進んで輸出企業がもうかっていくようになるというような効果があるということも考えられるんですが、実際に考えてみますと、期待インフレ率を上昇させるためにはずっと驚かせ続けなければならないということで、これは驚かせて、それがしばらくばあっと緩和して期待インフレ率が上がっても、それを、最初は驚くかもしれませんけれども、ずっと続けているうちにそれで慣れてしまうとそういう効果がなくなってしまうと。こういうのを一般に何と言うかというと、カンフル剤と呼ばれるのではないかなと考えられるわけであります。
資産効果の方は、上場企業にとっては当然ながら株式市場が上がっていって企業価値が上がっていくということがいいわけでありますけれども、ほとんどの上場企業でない中小企業に関しては直接的な効果が必ずしもあるわけではないという点を我々理解しなければなりませんし、為替効果に至っては、輸出企業はもうかるかもしれないですけれども、例えばエネルギーを、何かの都合によってエネルギーの油とかガスをたくさん購入しないといけないような国家、そういう状況においては原油価格とかガス価格が上がることを意味しますから、かえって円安になることで貿易赤字が悪化するということもありますし、例えば日本の状況ではまさにそういう状況にありますから、何と昨年の貿易赤字は一昨年よりも更に更に拡大してしまっていて、トータルとしては経常収支はまだ黒字ではあるんですけれども、経常収支も悪化しているというのが実態の客観的事実でございますから、そういうこともありますので、余りにこの金融政策による民需拡大効果というものを期待し過ぎるのは危険性を一部はらむ、一部というか結構はらむものではないかという危惧を当然ながら学者も政策担当者も持たなければならないということは理論的に当然考えられるわけであります。
ところが、じゃ、民間が借りてお金を使うというこの消費・投資、民間消費・投資が活性化されることはないのかというと、決してそんなことはございません。実体経済が活性化すれば、放っておいてもみんな金を使うようになります。すなわち、実体経済の活性化によって、この民間が借りてお金を使うという部分が大きくなります。そうなると、金融市場から実体経済の方にお金がどんどん流れていくようになりますから、そうなると財政政策は不要になります。
ということで、今やった治療行為は全部要らなくなります。全部要らなくなって、日銀、金融市場、実体経済、そして国民、企業ということで、お金が正しい方向に流れていくのであって、これこそが今デフレ脱却のために必要な政府がなすべきことなのだというふうに私は理論的に考えているわけでございます。これは私は理論的に確信している流れでございます。
以上は一般論でございますが、日本経済の状況はどうかというと、デフレであることは皆さん共有認識になってまいりましたが、快方に向かっているということも共有認識になっています。例えば、倒産数は減っていますし、失業率も下がりました。そして、物価の方も徐々に上がってきているので、確かにデフレは緩和しつつあることは間違いないですが、残念ながら完治には程遠いという状況であります。
例えば、実質GDPは、年末の状況では二、三%上昇するのではないかと多くの人々が年始の状況では皆さん予想していたのですけれども、駆け込み需要があるにもかかわらず、結果を見てみると、蓋を開けると一%しか上昇していないということであって、快方には向かっているんですが、完治からは程遠いということが考えられるわけであり、更に恐ろしいことに、労働者の平均の給与、すなわち現金給与総額というものは、九〇年の調査開始以降最低水準の記録を更新してしまったのが昨年でございます。
ということで、このデータを見た上で、もうデフレは脱却したんだということは誰も言うことができないはずだということを一学者として心の底から確信している状況でございます。そんな中で、更に増税が行われ、しかも補正予算が削減されるというショックがあるわけでございますから、これはひどい肺炎から治りかけたのに町内マラソン大会に出なあかんというような最悪な状況にあるのではないかということを私は一人で夜中、心配しているわけでございます。
ということで登場するのが、日本経済危機仮説でございます。これは当然ながら一学者の単なる仮説であって、事実かどうかは皆様に御判断いただきたいところでありますが、この仮説を思っている理由は四つでございます。一、二、三、四。
一、四月以降、増税による消費、投資の低減、これは皆さん御案内のとおり。
二番目、この増税に加えて、補正予算が削減されます。それによって内需が、政府関係の内需が十一兆円程度削減するのではないかということが予期されています。
この計算はこうなっています。補正予算が十兆円から五・五兆円に削減し、四・五兆円減ります。当初予算は一応一・八兆円プラスになるんですけれども、しかしながら増税で八兆円が、内需が削られてしまうということも危惧されます。これを全部勘案するとプラス・マイナス十一兆円の崖ができる。これは言わばアメリカ経済の財政の崖なんという言葉に倣って言いますと、日本版財政の崖、十一兆円の崖ができ上がるのではないかということが危惧されますし、駆け込み需要があり、それが四月以降の需要を前借りしているのだとしたら、それも二兆円前借りしていたらここに四兆円の崖が例えばできてきますから、これが一番、①の効果でありますけど、それを考えると四月一日以降とんでもない崖ができ上がるということは理論的に予期されるわけであります。
さらに、三番目として、ヨーロッパ、アメリカ、中国経済が非常に不安定化していて、さらに来年度中とかにリーマン・ショック・パートツーみたいなものが起こらないとも限らないわけであります。例えば、FRBの金融引締めを行っておりますので、これがアメリカの株安をもたらし、日本の株を安くするという可能性も危惧されます。中国のシャドーバンク問題というものもあります。さらに、ユーロ危機というものもあって、世界は非常に火種だらけでありますので、非常に危機的な状況にあって、これが日本経済にダメージを与えることも危惧されます。
しかも、財出が少ない中、金融緩和ばかりやり過ぎると、日本銀行から金融緩和、ここにマネーがたまって実体経済の方にお金が流れていかないと、金融経済だけがもう肥大化していきます。そうなったときに起こるのは、一般的にミンスキー先生等々が言っているのはバブルというものであります。そして、バブルというものは定義上、必ずはじけるものでございますから、このまま何も内需拡大策が取られないまま金融緩和が続けられていくと、そのうちマネーが滞留してバブルと、そしてそのバブルの崩壊の危機が増進してしまうと。これは日本で起こるとも限らなくて、この日本の金融緩和が、アメリカで起こったり諸外国で起こるということすらこのグローバル化時代には起こる可能性すらあります。この四番の確率は一番とか二番の確率よりは低いわけではありますけれども、こういうリスクがあるということは、政策担当者、そして学者は当然ながら心の中にとどめておくべきであると私は確信しているわけであります。だから、今こそ徹底的な財政出動を行って内需を拡大していくことが必要ではないかと考えるんですが。
次が最終のスライドでございますが、しつこいようですが、どうせ財政政策をやるんだったら、きちんとデフレから脱却できるように適切な、うまいお金の使い方をするべきだというふうに私は考えます。そのときに考えている対策は、一応この五つほど考えてまいりました。
これ、一例でございますけれども、例えば、元々デフレというものは中小企業が疲弊していることで起こっているというのが原因でありますから、中小企業対策ですね。これは、中小企業融資とか投資ファンドというものを異次元のレベルで数兆円規模で例えばつくって、これで徹底的に投資をしていくと。そうすることで中小企業の倒産をどんどん防いでいったり、収益を上げていったりとかということも対策一として考えられますし、あるいは、どうせお金を使うんだったら、将来の成長に役立つようなエネルギーインフラとかITインフラとか貿易インフラとか運輸インフラとかを造っていったり、あるいは人的な、あるいは知識的な将来の成長の起爆剤であります教育とか研究開発の投資をしていったりというものにお金を使っていったり。当然ながら、このときに外国企業を優遇しては意味がなくて、国内企業に発注していくことでデフレという病気が治療されていくというのは先ほどの定義上自明であります。
対策三というのは、将来の成長の阻害要因の除去のための投資、これはややこしいことを申し上げていますけど、例えば地震が来ると十年後のGDPがそれこそ五十兆とか六十兆とか低下しているかもしれませんけど、ここで防災投資、強靱化投資というものをやっておけば十年後のGDPの低下というものを最小限に食い止めることができるということが考えられるとすると、これは立派な成長戦略そのものだということが言えるというふうに思います。したがって、例えば防災投資、強靱化投資、老朽化対策というのは将来のマイナス成長を小さくするというプラス成長、マイナス掛けるマイナスはプラスでございますから、そういう効果があるだろうというのが対策三であります。
以上の対策一、二、三は政府がやるべきこととして今申し述べたわけでありますけど、こういった投資を民間がやりやすくするような対策というものをやっていくというのが対策四であります。投資減税、投資補助、そのための制度の見直し、規制緩和等々が考えられるでしょう。そして、この公共事業の単価の適正化というのは、建設企業において建設産業自身の投資を拡大していくための対策としてここに書かせていただいておりますけれども、そういうものをやることで建設供給能力が向上して、それを通して更に公共投資というものが進むことでこの対策二というものがどんどん進んでいくということも考えられるということも考えられます。
対策五でありますけれども、この一、二、三、四、いろいろなこういう対策、考えられますけれども、こういうものを万一阻害するような検討が実際に進められているとするのならば、例えば過当競争の促進とか、あるいは過剰な雇用の流動化政策の促進とかそういうものが進められては、元々この一、二、三、四を通して倒産とか失業とか所得の低減を防ごうという対策をしているときに過当競争とか過剰な雇用流動化なんていうものをやってしまうと元のもくあみになってしまいますから、そういうものがあるのかどうかということを確認したり、確認してあったとするならば見直しをしていくということも重要になってくるのではないかなというふうに思います。
こうした戦略的な財政政策、これを、ここでアベノミクスという言葉を使うのならば、第一の矢、第二の矢、第三の矢をしっかりと毛利さんのように一本にまとめて、そして折れないようにしてまとめてコーディネートして、しっかりと財政、金融、成長戦略というものをコーディネートしながら戦略的に政策を行っていくということが今なすべき経済政策なのではないかなと思います。
付録に関しては、いろいろとデータがございますが、また御質問をいただいたときに必要に応じてお話しいたしたいと思います。
ありがとうございました。
○会長(鴻池祥肇君) ありがとうございました。
次に、建部参考人にお願いをいたします。建部参考人。
○参考人(建部正義君) お手元に五枚から成るレジュメが届いていると思います。それに即しながら説明したいと思います。
この調査会の名称は、デフレ脱却、財政再建ということなんですけれども、私の今日の報告、報告といいますか説明は、基本的にまず金融の問題について、あるいは金融の立場からデフレ脱却という問題をどう考えるべきか、それについて発言させていただきます。もちろん財政についても私なりに意見を持っておりますけれども、その点については質疑の中で私なりの意見を述べさせていただく、そういう形にしたいと思います。
それで、レジュメの一ですけれども、これは量的・質的金融緩和政策の内容を黒田さん自身の講演に即して整理しました。これは既に御承知のことということですので説明は省略させていただきます。
ただ、確認しておきたいのは、一の③、「わかりやすい金融政策」のうちの二つ目の柱ですけれども、量的な緩和を行う場合の指標としてマネタリーベース、マネタリーベースというのは上の方に説明しておきましたけれども、日銀券発行高プラス市中銀行保有日銀当座預金残高、これを足し合わせたもの、これは、従来、日銀は金利を指標として金融政策をやっていたわけですけれども、昨年の四月四日以降、量的指標に政策的な指標を変更している、この点を後の議論との関連で確認しておきたいと思います。
それで、よく誤解されていることなんですけれども、黒田日銀総裁下の量的・質的金融緩和というのは、グローバルスタンダードにやっとたどり着いたんだ、世界標準に即したそういう金融政策がなされているという意見が多いんですけれども、私に言わせるとそうじゃなくて、まさに世界の中央銀行がやったことのない新しい歴史的な実験、それが進められているんだ。
このこと自身、そうですね、昨年の九月あるいは十一月頃から黒田さん自身が講演の中で明確に発言するようになりました。二、三拾っておきましたけれども、一ページ目の一番下ですね、昨年の九月二十日、きさらぎ会において黒田さんはこういうことを言っています。二ページ目に入りますけれども、量的・質的金融緩和は、中央銀行にとって主たる政策手段である短期金利の引下げ余地がなくなる中で、予想インフレ率を引き上げる、予想インフレ率を引き上げるというのはこれは世界最初です、という世界的にも過去に例のない問題に対する挑戦です。それから、十月十日のブレトンウッズ委員会インターナショナル・カウンシル・ミーティングではこういうふうに言っています。同じ内容ですけれども、量的・質的金融緩和は、名目金利の引下げ余地がなくなる中で、予想物価上昇率を引き上げるという世界的にも過去に例のない、どっちにも「世界的にも過去に例のない」、こういう言葉が出てきますよね。この点をしっかり押さえていただきたいというふうに思います。
じゃ、どの点で新しいのかというと、これもニューヨークでの十月十日の講演ですけれども、こういうふうに説明しています。
日本では、予想インフレ率は二%の物価安定の目標と比べて低過ぎる水準にありますので、これを引き上げる余地が十分にあります。このとき、名目金利を予想インフレ率の上昇よりも小さめの上昇に抑制することができれば、その分だけ実質金利を低下させることができます。この実質金利の低下によって設備投資や個人消費が刺激されることで景気が押し上げられ、実際の物価も徐々に上昇していくと期待できます。そして、実際の物価上昇はインフレ予想の上昇にもつながります。
つまり、思い切った量的緩和をやって予想インフレ率を引き上げる、予想インフレ率が上がるということになれば名目金利も上がるじゃないか、そうしたら元も子もなくなるということで、年間五十兆円程度の長期国債を日銀が買い取る、そういう形で名目金利は低く抑えるんだ、そうすると、この中にも出てきますように、実質金利が下がるだろう、実質金利が下がれば設備投資も個人消費も増えるはずだ、そういう形でデフレが脱却できる。まさに、予想インフレ率に働きかけるという意味で、繰り返しになりますけれども、世界に例のない、そういう金融政策が取られているんだと。
そうすると、次の問題は、アメリカだって量的緩和政策やっているじゃないか、黒田さんのやっているのと同じというふうに考えられないかということですが、この点も私に言わせると誤解されていまして、バーナンキがやっていた、バーナンキもう替わりましたけれども、バーナンキがやっていた、あるいは現在FRBがやっている政策というのは金利に対する働きかけなんですよね。予想インフレ率に対する働きかけではありません。
ちょっと長くなりましたけれども、バーナンキがビジネススクールで四回連続の講演をやった、それが日本語に翻訳されているんですけれども、連邦準備制度と金融危機、非常に明快なことを言っております。
諸君は通常の金融政策については知っていると思います。通常の金融政策はフェデラルファンズ金利、これは日本でいうコールレートのことですね、通常の金融政策はフェデラルファンズ金利と呼ばれるオーバーナイトの金利の管理を必要とします。短期金利を上げたり下げたりして連邦準備はより広範な金利に影響を与えることができます。そして、それが次に消費支出、住宅の購入、企業による設備投資などに影響を与え、それらが経済の生産に対する需要を提供し、成長への回復を刺激するという点において役に立つのです。これは伝統的な金融政策の中身ということで、まさに金利政策ですよね。
ところが、アメリカの場合、もうやっぱりゼロ金利という、そういう限界に到達するわけで、本質的には、二〇〇八年十二月までにフェデラルファンズ金利は基本的にゼロまで引き下げられた。それ以上引き下げられない。どうするかということで、それで、マスコミでは、その下の部分ですけれども、マスコミでは量的緩和、英語で言うとクオンティタティブイージングですけれども、むしろバーナンキは、その言葉は使いたくないんだ、私としてはLSAP、ザ・ラージスケール・アセット・パーチェシズ、大規模資産購入と言う方が適切なんだ。
大規模な資産を購入するとどういう効果を持つのかというと、下の四行ですね。では、これはどのように機能するのでしょうか。より長期の大規模な、しかも長期の国債を買い入れるということで、より長期の金利に影響を及ぼすために、連邦準備は国債の大量購入を実施し始めました。国債を購入して我々がバランスシートに計上し、これらの国債の入手可能な供給を減らすことによって我々はより長期の国債の金利を実際に引き下げたんだ。
アメリカでやっている量的緩和というのは、実質的には金利政策なわけですよね。短期金利はもう限界に達した、ゼロという限界に達した。長期金利を引き下げますよ、そういう政策を我々はやったんだという、こういうことであります。
話が戻りますけれども、ですから、黒田さんがやっている現在の量的・質的金融緩和というのは、誤解はされていますけれども、アメリカと同じものではないんだという、そこを強調したいわけです。
そうすると、黒田さんの場合は期待インフレ率に働きかけようというわけですから、そういう政策というのは経済学的に考えてどういう位置付けになるのかということで、二つほど他の人の発言の引用を取っておきました。
一つは、白川さんが昨年の三月十九日に退任記者会見されたときにこういうふうに発言されています。期待に働きかけるという言葉が中央銀行が言葉によって市場を思いどおりに動かすという意味であるとすれば、そうした市場観、政策観には私は危うさを感じます。もう辞められたもので、白川さんの発言というのは無視されがちですけれども、私に言わせると、こういう非常に重要なことを言っていたんだということになります。
それから、慶応大学の池尾さんですけれども、池尾さんというのは非常にキャッチフレーズを作るのがうまいなという、後の方で出てきますけれども、気合さえ入れれば信じてもらえるというのは、信仰の表明ではあっても、到底ロジカルな主張だとは言い難い。期待に働きかける、そういう金融政策のことを、気合さえ入れればそれで事が済むのかと、そんなものじゃないだろうというふうに言っているわけですね。私もまさに池尾さんの言うとおりだというふうに感じます。
それで、問題は、期待に対する働きかけという金融政策がうまく機能しているということであれば特に異論を唱えることもないわけですけれども、その次は、今年の一月二十四日付けの日本経済新聞の記事です。日本経済新聞はこの間、一貫してアベノミクス、あるいはその一環としての黒田総裁が進めている日銀の量的・質的金融緩和政策、これを擁護するといいますか後押しする、そういう記事が目立ってきました。ところが、その日経新聞でもこういうふうに言わざるを得なくなっているわけですね。
順調に見える物価改善は円安の恩恵が大きい。野村証券の試算では、去年の十一月ですね、十二月は一・三%になっていますけれども、十一月の物価上昇率は一・二%だった。そのうち〇・七%分は円安に伴うエネルギー価格の上昇による効果だ。円安と公共投資頼みの物価回復では持続力に欠ける。民間予測平均の一五年度、来年度ですね、一五年度、二%の物価上昇を実現する、日銀が目標年度にしている、それが一五年度ですけれども、物価上昇率は一%弱にとどまり、日銀の二%程度に及ばないとの見方は根強い。実は日銀調査統計局も物価の先行きを慎重に見ている。右肩上がりの改善を終え、夏にかけて、今年の夏ですね、夏にかけては一%前半程度で物価上昇率が推移する、そういう高原状態に移るだろう。
こういうふうに問題を整理してくると、理論的にも期待に働きかける政策というのは非常に危うさを含んでいると同時に、実態に照らしても必ずしもうまくいっていないんではないか、そういうことになります。
そこで、いよいよデフレについての話ということになりますけれども、問題は、デフレは貨幣的な現象なのかということですよね。貨幣的現象であるということになれば、これは日銀の責任ですよ、こういうふうに話が進むわけで、金融政策何とかしろ、こういうことになります。
安倍さん、あるいは黒田さんですけれども、安倍さんの発言は首相になった後のものです。それから、黒田さんのものは総裁になる前のものですけれども、安倍さんはデフレは貨幣的現象だと明確に言い切るわけですね。黒田さんはちょっとトーンが違いますけれども、デフレ脱却の責任は日銀にある、要するに日銀の政策次第でデフレは脱却できるよ、そういうことになるわけですけれども、じゃ、こういうことですよね、日銀は経済が必要とするお金を必要なだけ十分に供給しなかった、だからデフレが起こっているのかと、そういうことになります。
ところが、これも事実を調べてみれば分かる話で、まず日銀券の流通量ですよね。例えば、経済の世界ではヘリコプターマネーという言葉があります。日銀がヘリコプターで空からお金をまく、それを国民が拾ってそれを消費に充てる、その場合には日銀券の発行量あるいは発行高、これ日銀が決めるというふうに言えますよね。だけども、企業だとか家計は、自分たちが市中銀行に持っている預金を解約して日銀券を手に入れるわけですよね。クリスマスだ、年末、お正月だということになると手元に現金が欲しい。市中銀行に行って窓口から現金を下ろして、それで小売店なら小売店で使いますよ。小売店は余った日銀券を市中銀行に持ち込んで預金にする。こういう形で日銀券が流通しているわけで、これもやや誤解が多いんですけれども、日銀券の流通量は日銀ではなく企業、家計がその決定者であって、日銀は出ていく日銀券については受動的に対応するしかない。
大体、今、日銀券はどの程度流通しているんだということですけれども、これ、四月四日が量的・質的金融緩和の発表された時点ですから、昨年の三月末の数字を取ってみました。八十三兆円ですね、八十三兆円。これを国民一人当たりに直しますと、私もいつもびっくりするんですけれども、約六十五万円です。こういう状況で、日銀券が不足だ、あるいは日銀が必要な銀行券を発行していないなんてとても言えませんよね。
それから、日銀当座預金について見ても同じです。白川さんの時代にも金融緩和措置が相次いでとられていました。私に言わせると、もうその時代から日銀はじゃぶじゃぶと言えるほどの当座預金を市中銀行に供給してきたんだ。
準備預金制度というのが我が国にはありまして、法律上、必要準備というのが決められています。法定準備は八兆円ですけれども、それに対して日銀が供給している準備預金というのは五十三兆円。四十五兆円も超過するという形で供給しているわけですね。ここからも、日銀が必要な貨幣量を供給しない、そのためにデフレが起こっているなんてことはとても言えませんよ。
その後、また白川さんの言葉ですけれども、マネタリーベースと物価との関係を調べてみると、マネタリーベースは増えているけれども物価はちっとも上がらないじゃないか、貨幣数量説、あるいはマネタリストが言っていることと日本の現実とは相応しませんよ、そういうことを言っています。
そうなると、一体デフレの本当の原因は何なんだということになります。これも最近随分論調が変わってきたなと思うんですけれども、日銀の審議委員の佐藤さんという方がいらっしゃいます。昨年の二月六日の講演ですけれども、こういうふうに言っているんですよね。日銀の現役の審議委員ですよね。それにしても日本はなぜ十数年もの間、デフレから抜け出せないのであろうか、その主因は賃金にあると考えている。もう時間がありませんので、ずっと下の方に行きますと、したがって、物価安定の目標である二%の消費者物価上昇率を目指すには、とにもかくにも賃金の回復が重要である。現役の審議委員がこういうふうに言っている。
それから、吉川洋東大教授ですね、小泉さんの時代の経済財政諮問会議の民間議員でしたけれども、この人が昨年、「デフレーション」という本を出しました。非常に評判を呼んだ本ですけれども、そこでもこういうふうに書かれているわけですね。最後のページに行っていただいて、二行目、なぜ日本だけがデフレなのかという問いに対する答えは、日本だけで名目賃金が下がっているからだ、はっきりとこういうふうにこの本の中で断定しているわけです。
それから、黒田さんでさえ、昨年の、これはたまたま五月二十三日の記者会見の中身を取り上げましたけれども、何度か記者会見で同じことをおっしゃっています。黒田さんでさえ、二%の物価安定の目標は、消費者物価の対前年比上昇率が二%という水準に達するということを目標としていますが、まあそこまでは金融政策で持っていけるよという、そういう意味が含まれているのかもしれませんけれども、とにもかくにも、その持続的な達成は、賃金や雇用も改善する、言わば生産、所得、支出とのバランスの取れた改善が続かなければ容易ではない。黒田さんでさえ、金融政策だけじゃなくて、やっぱり賃金も雇用も改善しないとデフレの本当の克服にはつながらない、こういうふうに考えているんだと思います。
その次に、先人の箴言ということで、私はマルクス経済学者なのでマルクスから引用しておきましたけれども、資本主義的生産様式における矛盾、商品の買手としての労働者たちは市場にとって重要である、しかし、彼らの商品の売手としては、資本主義社会はそれを最低限の価格に制限する傾向を持つ。
つまり、賃金というのは、企業から見るとコストであると同時に自分の商品を買ってくれる需要の側面を持っているわけですね。両面持っている。ところが、コストということを重視する余り賃金を下げちゃった、デフレになったよと。それはそうですよね。日本では個人消費の比率はGDPの六〇%です。そこの部分を下げちゃうわけですから、当然物価が下がる、デフレになるということになるわけで。ケインズも合成の誤謬という言葉を使っておりまして、要するに個々の企業が合理的、つまり賃金を下げるということですね、個々の企業が合理的に行動したとしても、経済全体としては、ケインズの言葉で言うと有効需要ですよね、有効需要が減っちゃって不況になっちゃうよ、そういうことを合成の誤謬というふうに呼んでいます。
最後の結論ですけれども、ですから、結局インフレターゲティングを今日銀がやっているわけですけれども、賃上げターゲティングという、そういう方向に政策転換する必要があるんではないかと。ただ、その賃上げターゲティングということになると、もう金融政策から離れます、政府の広い意味での経済政策の一環ということになるわけで。じゃ、賃上げ、どの程度かといいますと、これは日銀が試算しているんですけれども、消費税率が三%上がった場合、消費者物価はどの程度上がるかというと、二%程度だろうと。そうすると、この分を埋め合わせてなお賃上げが必要ということになると三%以上という、そういう数字が出てくるんではないかと。
財源というのは、これも最近ではいろいろあちこちで言われていますけれども、大企業の内部留保は二百七十兆円もあるよ、そのうち現預金、これは中小企業も含んだものですけれども、現預金は二百三十兆円もあるでしょう。
そうすると、日銀は何もしなくてもいいのかと。もちろんそういうわけではありません。さっきFRBのLSAP政策を紹介しました。私に言わせると金融政策の王道は金利政策にあるわけで、ですから長期金利に働きかける、そういう意味で金融政策は依然として有効であるし、日銀はそういう政策を取るべきである、こういうふうに考えております。
以上です。
議事録を読む 辰巳質問部分
○辰已孝太郎君 日本共産党の辰已孝太郎です。
まず藤井先生にお聞きしたいんですが、所得を増やしてデフレ脱却ということなんですが、今、国土強靱化と言われていると。その中で財政出動ということも先生唱えられていると思うんですが、国土強靱化の中でも、これから、例えば国交省が所轄する公共インフラの十分野でいいますと、すなわち道路、治水、下水道などの老朽化ですね、これが問題にもなっておりまして、これ国交省の試算でも、この老朽化対策するだけで年間四兆円で、今後五十年で延べ二百十兆円ぐらいの財政出動、老朽化対策必要じゃないかという試算が出されております。私たちは、むしろそういうところには老朽化対策ということで公共事業もきちんとやっていく、手当てする必要があるんじゃないかというふうにも思っているんです。ですから、その辺の藤井先生の、老朽化対策というところでの財政出動ですね、そこの重要性といいますか、その辺の先生の所見をお聞かせいただきたいと思っております。
それと、建部先生の方には、今回、補正予算では復興特別法人税が一年前倒しで廃止をされるということになりました。この間の法人税の議論を見てみますと、法人税を下げればその分が賃金に回ってということが言われております。より一層法人税減税をしていこうというのがこれからの流れになってくるんですが、先生は、法人税減税でいわゆる日本の経済、デフレ脱却につながるのかどうかということと、あと四月から予定されている消費税、来年十月の消費税一〇%ですね、これが与える日本経済への影響、デフレ脱却にどう影響してくるのかということを二つお聞きしたいと思います。
○参考人(藤井聡君) 御質問ありがとうございます。
まさに先ほど、これからの戦略的な財政政策を考えるときの一つの項目として老朽化対策というのを入れさせていただいておりましたですけれども、これは確実にやっていくことが必要であるというふうにまず考えております。これが第一点。
第二点でありますが、それをどういうふうに戦略的に計画的にやっていくのかということが次に問われると思うんですが、これに関して私の持論を申し上げますと、次になります。
私は、橋梁とかダムとか堤防とか等々全部、鉄道もですけど、含めて、将来のインフラ長期プランというものを作っていく必要があると思います。国土計画とか地域計画とか都市計画というものとも当然リンクしてくるというか、そういう意味合いを帯びるものだと思いますけれども。
これはどういうプランであるべきなのかというと、基本的にインフラというものを三つに分けたらいいんではないかと思います。まずは、維持すべきもの。今既存のもので維持すべきものはどれなのかと、長期的に考えて。そして二つ目は、長期的に考えて維持しなくてもいいものはあるのか。これが二つ目。三つ目は、長期的な将来のビジョンにおいてどういうインフラが追加的に必要なのか。この三つですね。
既存のものを、どれを維持し、どれを撤退し、どれを付けるのかということで、二十年後とか三十年後にどういう国を、どういう地域を、どういう都市をつくっていくのかというビジョンを作って、そのプランの下で、当然ながら、維持をすると決めたものに関しては徹底的に維持管理の老朽化対策投資を行っていくと。そして、新規に造ると決めたものに関しては新規投資を徹底的にやっていくと。そういう格好で、合理的に将来の国の形、地域の形、都市の形をつくっていくということを考えるのがやはり一番戦略的で合理的な投資計画になるんじゃないかなと。すなわち、維持管理と新規とを分けないで、両者を一体化して合理的に考えていくということが一番大事なのではないかというふうに私は考えている次第でございます。
以上でございます。
○参考人(建部正義君) 法人税を下げたら景気が良くなる、あるいは、最近の新聞を読んでいますと、税収も増えるんじゃないかという、そういうふうな一部の学者の見解も伝えられていますけれども、法人税を下げたからといって賃上げの方に結び付かないと思いますけれども、要するに、企業収益が増えるとそれがいずれは賃金の上昇につながっていくよと、そういう考え方はトリクルダウン理論というふうに言われてきたわけですね。我が国ではトリクルダウンという言葉がいつ頃から使われたのかなと。私の印象では一九九〇年代の末ぐらいからそういう言葉が使われ始めたという印象を持っているんですけれども、それ以来、日本の現状を見ていますと、企業収益が増えたからといって賃金が引き上げられた、さっき藤井参考人もそのことに、給料が下がっているよということについて言及されていましたけれども、残念ながら、日本の二〇〇〇年代あるいは二〇一〇年代の現実を見ると、トリクルダウン理論が実現したとはとても言えないわけですね。
ですから、要するに、デフレを克服するためには何を最優先にすべきか、何がデフレの真の原因かという、結局そこに最後は行き着くと思うんですけれども、私は、この間の賃下げがデフレの原因ということになるわけで、そうすると、デフレを克服し日本経済を立て直すためには、やっぱり賃金の引上げというそこであって、企業をこれ以上優遇してみても、本当にそれが賃上げにつながって景気の回復につながるのかという、そういう保証はない。だから、法人税の引下げについては私の立場としては疑問を持っているというふうに申し上げたいと思います。
それから、消費税の問題ですけれども、三%分の消費税の引上げという点ではもう一か月先に迫っていて、これを撤回するというのは非常に難しいと思いますけど、それを前提として問題を捉えますと、さっきも言いました、日銀の試算では、三%消費税が上がると消費者物価が二%程度、三%全部が転嫁されるわけじゃなくて、まあ二%ぐらいだろうという、そういう数字を出しております。ですから、二%の賃上げがあって初めて消費税を埋め合わせる、そこでやっと国民の消費能力が維持されるということで、景気の回復につながるためにはそこから更に積み増す必要があるんではないかということで、さっきは三%以上という、そういう数字が出てきますよということを申し上げました。賃上げと結び付かなければ、消費税の引上げが景気を冷やす、そういう方向で作用するという可能性は十分に考えられます。
以上です。
○辰已孝太郎君 ありがとうございました。
まず藤井先生にお聞きしたいんですが、所得を増やしてデフレ脱却ということなんですが、今、国土強靱化と言われていると。その中で財政出動ということも先生唱えられていると思うんですが、国土強靱化の中でも、これから、例えば国交省が所轄する公共インフラの十分野でいいますと、すなわち道路、治水、下水道などの老朽化ですね、これが問題にもなっておりまして、これ国交省の試算でも、この老朽化対策するだけで年間四兆円で、今後五十年で延べ二百十兆円ぐらいの財政出動、老朽化対策必要じゃないかという試算が出されております。私たちは、むしろそういうところには老朽化対策ということで公共事業もきちんとやっていく、手当てする必要があるんじゃないかというふうにも思っているんです。ですから、その辺の藤井先生の、老朽化対策というところでの財政出動ですね、そこの重要性といいますか、その辺の先生の所見をお聞かせいただきたいと思っております。
それと、建部先生の方には、今回、補正予算では復興特別法人税が一年前倒しで廃止をされるということになりました。この間の法人税の議論を見てみますと、法人税を下げればその分が賃金に回ってということが言われております。より一層法人税減税をしていこうというのがこれからの流れになってくるんですが、先生は、法人税減税でいわゆる日本の経済、デフレ脱却につながるのかどうかということと、あと四月から予定されている消費税、来年十月の消費税一〇%ですね、これが与える日本経済への影響、デフレ脱却にどう影響してくるのかということを二つお聞きしたいと思います。
○参考人(藤井聡君) 御質問ありがとうございます。
まさに先ほど、これからの戦略的な財政政策を考えるときの一つの項目として老朽化対策というのを入れさせていただいておりましたですけれども、これは確実にやっていくことが必要であるというふうにまず考えております。これが第一点。
第二点でありますが、それをどういうふうに戦略的に計画的にやっていくのかということが次に問われると思うんですが、これに関して私の持論を申し上げますと、次になります。
私は、橋梁とかダムとか堤防とか等々全部、鉄道もですけど、含めて、将来のインフラ長期プランというものを作っていく必要があると思います。国土計画とか地域計画とか都市計画というものとも当然リンクしてくるというか、そういう意味合いを帯びるものだと思いますけれども。
これはどういうプランであるべきなのかというと、基本的にインフラというものを三つに分けたらいいんではないかと思います。まずは、維持すべきもの。今既存のもので維持すべきものはどれなのかと、長期的に考えて。そして二つ目は、長期的に考えて維持しなくてもいいものはあるのか。これが二つ目。三つ目は、長期的な将来のビジョンにおいてどういうインフラが追加的に必要なのか。この三つですね。
既存のものを、どれを維持し、どれを撤退し、どれを付けるのかということで、二十年後とか三十年後にどういう国を、どういう地域を、どういう都市をつくっていくのかというビジョンを作って、そのプランの下で、当然ながら、維持をすると決めたものに関しては徹底的に維持管理の老朽化対策投資を行っていくと。そして、新規に造ると決めたものに関しては新規投資を徹底的にやっていくと。そういう格好で、合理的に将来の国の形、地域の形、都市の形をつくっていくということを考えるのがやはり一番戦略的で合理的な投資計画になるんじゃないかなと。すなわち、維持管理と新規とを分けないで、両者を一体化して合理的に考えていくということが一番大事なのではないかというふうに私は考えている次第でございます。
以上でございます。
○参考人(建部正義君) 法人税を下げたら景気が良くなる、あるいは、最近の新聞を読んでいますと、税収も増えるんじゃないかという、そういうふうな一部の学者の見解も伝えられていますけれども、法人税を下げたからといって賃上げの方に結び付かないと思いますけれども、要するに、企業収益が増えるとそれがいずれは賃金の上昇につながっていくよと、そういう考え方はトリクルダウン理論というふうに言われてきたわけですね。我が国ではトリクルダウンという言葉がいつ頃から使われたのかなと。私の印象では一九九〇年代の末ぐらいからそういう言葉が使われ始めたという印象を持っているんですけれども、それ以来、日本の現状を見ていますと、企業収益が増えたからといって賃金が引き上げられた、さっき藤井参考人もそのことに、給料が下がっているよということについて言及されていましたけれども、残念ながら、日本の二〇〇〇年代あるいは二〇一〇年代の現実を見ると、トリクルダウン理論が実現したとはとても言えないわけですね。
ですから、要するに、デフレを克服するためには何を最優先にすべきか、何がデフレの真の原因かという、結局そこに最後は行き着くと思うんですけれども、私は、この間の賃下げがデフレの原因ということになるわけで、そうすると、デフレを克服し日本経済を立て直すためには、やっぱり賃金の引上げというそこであって、企業をこれ以上優遇してみても、本当にそれが賃上げにつながって景気の回復につながるのかという、そういう保証はない。だから、法人税の引下げについては私の立場としては疑問を持っているというふうに申し上げたいと思います。
それから、消費税の問題ですけれども、三%分の消費税の引上げという点ではもう一か月先に迫っていて、これを撤回するというのは非常に難しいと思いますけど、それを前提として問題を捉えますと、さっきも言いました、日銀の試算では、三%消費税が上がると消費者物価が二%程度、三%全部が転嫁されるわけじゃなくて、まあ二%ぐらいだろうという、そういう数字を出しております。ですから、二%の賃上げがあって初めて消費税を埋め合わせる、そこでやっと国民の消費能力が維持されるということで、景気の回復につながるためにはそこから更に積み増す必要があるんではないかということで、さっきは三%以上という、そういう数字が出てきますよということを申し上げました。賃上げと結び付かなければ、消費税の引上げが景気を冷やす、そういう方向で作用するという可能性は十分に考えられます。
以上です。
○辰已孝太郎君 ありがとうございました。